水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

星影の池(高知県仁淀川)

【ほしかげのいけ。星ヶ窪】

実証されれば日本第一号の隕石湖?

 

星ヶ窪。尾根上の不自然な窪地と、隕石伝説

土佐湾に流れ込む清流・仁淀川が四国山脈に奥深く分け入るにつれ、またひとつの支流を谷間に残していく。そんな長者川の先には、小さな集落が石垣棚田とともに段々となって急斜面にへばりつくように蹲っていた。
長者集落。
川沿いの道から集落に入る枝道は、もう狭隘な登り坂だ。集落をつづら折りに抜け、標高600mの稜線上に出ると不思議な窪地があるという。土地の言い伝えでは、隕石が落ちた直後にできたので「星ヶ窪」と呼ぶそうだ。
現在はキャンプ場になっており、クレーター湖を思わせる円形の池まであって驚いたが、この池自体は「星影の池」という名からも想像できるように、観光用に手が入れられている可能性が高く、現在のところ学術的には隕石湖として認められていない。
ただ池の現在の姿はともかく、星ヶ窪が隕石落下地点であれば、日本未発見のクレーター湖がこのあたりにあった可能性もゼロではない。
この地に赴くことができる日が待ち遠しかった。


「だんだんの里」を謳う長者集落。集落にかぶさる山の上に星ヶ窪がたたずむ


 

長者集落と地すべり地形

星ヶ窪から長者川に向かっての斜面は大規模地すべり地でもある。恐怖を感じるような急斜面に400年もの長い時間をかけて石垣を築き、田畑や営みを根付かせてきたのが長者集落。
ここから1〜1.5車線の狭隘な道をひたすら登っていくと、視界が開け念願の星ヶ窪に出た。
秋には一面のコスモスが迎えてくれるだろう。




 

草競馬場として造成

クレーター痕と思われていた場所を明治32年に造成し、西日本最大級の草競馬場をオープン。活況を呈していたという。そういえば、明治時代は上野の不忍池も競馬場だった。
下の写真からは明瞭にオーバルコースの痕跡がみてとれるが、一周460mで陸上トラックより少し大きいぐらいの大きさ。不忍池のようなオフィシャルコースは1,600mだったので、競馬場としてはかなり小さい。
それでも1万人もの観客を集めたこともあったそうだが、昭和34年に草競馬も閉園。
競馬場造成前の写真でもあればもう少し見えてくるものもありそうだが、造成によってどこまでが隕石落下による地形なのか分からなくなっている。


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池の構造

周囲長100mの池で水深7m?


競馬場造成によって元の地形が失われたとはいえ、池のある部分は現在もスリバチ形状が見てとれる。
真偽は定かではないが、この池は水深7mほどあるといわれている。
水深7mという話がほんとうだとすれば、直径30m、周囲長100mという小さな池としてはかなりのドン深だ。この比率を円形に近い猪苗代湖に置き換えれば、水深はなんと350mにもなる。異常というほどでもないが、身近な感じでもない。
水面上のゆるやかなスリバチ形状との連続性で捉えることも難しいだけに、隕石説にもすがりたくなる。


 

池のインレット側

池の一般的な形態からすれば、スロープ状になった芝生側が流れ込みになろうか。流入する水路はないが、水ぎわから芝生の緩斜面に向かって連続性が見られ、降雨時の流入はあるだろう。


 

池の吐き出し

不可解なのは吐き出しである。
池岸に固定柵が設けられていることから、水位をほぼ一定を保つ仕組みがあってしかるべきだが、洪水吐なりオリフィスなりが見あたらない。
横溢するほどの増水がないとすれば、水源は人工か。もっともそれは公園池となった現在の池の話で、競馬場になるもっと昔のクレーター湖の方に思いを馳せれば、星ヶ窪から山裾に流れ出した沢の痕跡があれば・・とも思ったが、地すべり地帯のため、どうも微妙。



右の写真では、池のあたりからいい切れ込みが下っているように見える


 

池岸

インレット側以外の岸形状は、土の断ち落とし。
半周ほどは垂直。そう、このまますとんと底まで落ちてくれなければ、水深7mは達成できない。


星影の池という名が記された看板

 

水源

降雨時にインレット側から流れ込む水も少なからずあるだろう。ほか池底からの湧水が水源という可能性もある。
一方、池岸の一角に、パイプから水がちょろちょろ出ているところがあった。ホースは地中に埋まっており、キャンプ場の水場につながっているようであった。つまりこの池の水には水道からの水も含まれているということのようだ。


 

生息魚類

金魚のほか黒々とした鯉の幼魚が大量に生息。
飼われている鯉にしては大きなものがいない。幼魚ばかりの密集感は、遠州七不思議の大瀬神池の異常な感じに通じるものがある。

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琴平神社

隕石にまつわる何かが神社に残されていないか、確認するのを忘れてしまった。
神社の創建は江戸時代で、草競馬はもともとこの神社へ奉納する神事だったとのことで、隕石は関係ない。
資料で昭和30年ごろの草競馬の写真も見た。今と同じ場所に円形の池らしきものが見えるが、現在よりも全体的にスリバチ感が強く見えるのは樹木が少ないせいか。
星ヶ窪の隕石伝承の裏付けとなるものも、早く見つけたい。


 

稜線上の窪地という特殊性

現地に触れてみたまっすぐな感想としては、ありえない地形にある池、あるいは窪地とまでは言い切れなかった。
こういった稜線上の池としては全国的にみれば富山県の猫池など、もっとエッジのきいた池もある。
尾根上の窪地として見ても、新潟長野県境をなす関田山脈には稜線上にいくつもの窪地があり、それらは桂池、野々海池、ソブの池といった溜め池のゆりかごとなっている。

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クレーター湖の可能性

全国的に見れば稜線にまたがる窪地というものは少ないながらも存在する。この星ヶ窪も造成の入った現状では、「隕石でなければ説明できない地形」とまでは言えない。
その一方、草競馬場のコース内側にあたる池のまわりが、造成の影響を受けなかったとしたら(造成時に保存する意思があったとしたら)、このスリバチ感はけっこう特殊なものにも見える。池の水深が7mあれば、自然地形としての違和感は増す。
まずはこの池の底の状態が分かれば、次のステップへと見えてくるものはありそうだ。

星ヶ窪は山の稜線上にある


 

日本における隕石湖

新海誠監督がヒット映画『君の名は。』の舞台として糸守湖という架空のクレーター湖を描いたことで、一時期、日本におけるクレーター湖への関心が高まったが、学術的・国際的に認定されているクレーター湖は日本ではまだなく、伝説などで隕石湖と伝えられていたり、隕石湖の可能性が指摘されている池はいくつかある。
個人的には、山の上にある星ヶ窪(高知県)と海チカの星池(長崎県)は、立地がきれいにまとまりすぎているのが気になる。
山腹にあるシンガハタの池(岐阜県)は立地的に唐突感があるところがいい。隕石はどこに落ちるか分からないのだ。

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そもそもクレーターは日本にあるの?

水による地形浸食の激しい日本ではクレーター跡が元の形状を保つのは難しく、まして湖や池の形態を保つのはなおのことである。そもそもクレーター跡として学術的に認定されているのは、国内では御池岳クレーター(長野県)の一例だけ。直径は900メートル、深さは300メートルと推定されているから、直径がせいぜい数十メートルの星ヶ窪とはケタ違い。それでも世界的に見ればノーマルサイズだ。
御池という名にドキっとするが、残念ながら、この池は隕石衝突痕とは関係ない。

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君の名は。

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  • 神木隆之介
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Google マップ

マークした場所は星ヶ窪キャンプ場の駐車場。