水辺遍路

訪れた全国1万1,100の池やダムを独自の視点で紹介

星池(長崎県対馬)

【あれのほしいけ。阿連の星池】
f:id:cippillo:20201025190957j:plain

対馬唯一の天然湖沼?

島のほとんどを400〜500m級の峰を連ねた山地が占め、リアス式海岸によって深く複雑に折りたたまれた海岸は総延長915kmにもなる一方、白砂を弓なりに引くビーチはほとんどない。よって島嶼でよく見られる海跡湖もなく、山の方を見ても堰き止め湖など天然由来の池は見つけられなかった。
対馬に天然湖沼はないのか、そう思った時に阿連(あれ)集落近くの星池のことを知った。ただ、一筋縄でいく池ではなかった。


f:id:cippillo:20201025191812j:plainf:id:cippillo:20201025191758j:plain
カーナビのマークの場所まではクルマで入れたが、その先はバイクで進んだ。

 

星池に行く

地図で確認すると海岸近くに確かに池があったが、アプローチ路らしき道がない。
まずは池の南側にある阿連集落へ。
漁港から海岸伝いに先に進むルートがないか、せめて星池についての案内板でもないかと淡い期待を描いていたが、そんなものはなかった。
半島を横切る3kmの道をもどりつつ、途中、海岸に向かう道がないか探した。
けっきょく今里の港町まで戻ってしまった。
ここから一本、沢伝いに山へと入っていく道があったが、少し進んだところで工事車両が道をふさいでいた。
星池のことを話すと、みな星池のことを知っていたので驚いた。観光地でもない池のことなど、ふつうは誰も知らない。
この道を進めば行けるといって、トラックを動かし道をあけてくれた。


f:id:cippillo:20201025191741j:plainf:id:cippillo:20201025191728j:plain
対馬の池近くで見られる例の円筒の一大集積地となっていた。中には、ハート形の口を持つものも
f:id:cippillo:20201025191716j:plain


 

そういえば居酒屋の店主も

じつは星池の話を知った当初は、懐疑的な気持ちの方が先行していた。
幻の池、天空の池・・、最近は集客やSNS映えのためにキラキラネームが量産される傾向がある。
この星池も名前がきれいすぎる。観光振興のために近年になって作られた名だろうと思っていたが、前夜、厳原港の居酒屋の店主が星池のことを知っていただけでなく、それは違うときっぱり言ったので驚いた。
「星池」という名は江戸時代からあったんじゃないかという話。うわあ、それなら本物だ。観光用のキラキラネームなどと失礼なことを言ってしまった。

f:id:cippillo:20201025190920j:plain


対馬に残る二つの隕石落下伝説

対馬の風物を記した江戸末期の文献『津島紀事』には、確かに隕石にまつわる二つの話が記載されている。
阿連集落近くにあるオリグチ崎のシュッタ浜に、昔、星が落ち、その跡が池になった。村人は池を少しずつ埋めて田にしたが、クレーターの丸い痕跡は残っている。
もうひとつは、20kmほど北に行った対馬中部の明星岳に抱かれた海岸の集落・銘にある明嶽神社。ここで御神体となっている30センチほどの人の形をした石が、かつて雲も風もない夜に雷のような大音響とともに渚に落下した星が岩に変化したものだという。
この神社の近辺はリアス式海岸になっており、現在の地形からクレーターの痕跡らしきものを見つけるのは難しそうだ。
いずれにしても江戸時代までに二つの隕石をめぐる伝承が対馬に残されていたことは興味深い。

f:id:cippillo:20201025190858j:plain
伝説にあるようなクレーター痕を思わせる円形は、現在の地形からは読み取りにくい


f:id:cippillo:20201025191017j:plain
池の奥側は棚田状になっており、伝承にあるように田として開拓した痕跡がみてとれる


 

水源

明瞭な流入河川および流出口は見あたらない。
池の湛水面は海水面より高い位置にあるように見えるので、海水が浸透して湛水したものではなく、山側から伏流水でもたらされた淡水が溜まったものと思われる。
尾根をひとつはさんだ谷は今里集落側に向かって流れる沢となり谷津田を育んでいるので、集水域は少ないものの、この山塊が星池を満たすだけの伏流水を涵養していてもおかしくはない。

f:id:cippillo:20201025191011j:plain
池の水面は海水面より高い位置にあるように見える

f:id:cippillo:20201025190925j:plain

f:id:cippillo:20201025190915j:plainf:id:cippillo:20201025190905j:plainf:id:cippillo:20201025190853j:plain


 

周辺地形と、あやしげな坑道跡

1kmほど南に阿連(あれ)の白浜という対馬では希少な白砂のビーチがある。
星池の開口部も長さ300mほどの弓状のビーチで「オリグチ崎のシュッタ浜」と呼ばれていたようだが、砂礫は荒く海洋漂着物も多い。
星池はシュッタ浜の北端にあるが、中央と南側にも海跡湖があってもおかしくない平坦地形が見られた。
ここ星池がもし伝説のように隕石湖ならば、日本唯一、あるいは日本初のクレーター湖になる。しかしそれが世界的に認定されるためには湖底から隕石由来の物質を抽出する必要もあり、まだ時間はかかるだろう。
初見の感触としては隕石湖の可能性は低い。山頂や山腹ならまだしも、いかにも海跡湖らしい立地と地形なのだ。ただ、伝説が語るロマンに賭けて、隕石湖の夢を持っていたいとも思う。
さて、もうひとつの池跡のような場所に向かって、けっこう立派な道路(私道ということになっている)が通じていた。星池を観光化する準備なのかと思ったが、後で航空写真で見てビックリ。トンネルの入口のようなものが・・。
なんとこれ、日本と韓国をつなげるトンネルの坑口とか。そんな計画があったとは・・。

f:id:cippillo:20201025190948j:plainf:id:cippillo:20201025190938j:plain
星池とシュッタ浜


f:id:cippillo:20201025190943j:plain

f:id:cippillo:20201025191006j:plainf:id:cippillo:20201025190932j:plainf:id:cippillo:20201025190920j:plainf:id:cippillo:20201025190910j:plain


bunbun.hatenablog.com

 

Google マップ

ピンの位置は星池の正確な位置。