水辺遍路

訪れた全国1万1,100の池やダムを独自の視点で紹介

美多羅志神社の池(三重県答志島)

池の前に掲げられたオオウナギの案内板

島にある小さな寺社池で・・

2018年2月、鳥羽湾に浮かぶ有人島の小さな池が全国のニュースでとりあげられた。美多羅志神社の境内にある寺社池で全長1.3m、重さ3.5kgのオオウナギを神社関係者がタモ網で捕獲したのだ。
神社の守り神の池ヌシでは? ということになり、オオウナギは池に戻されたものの数日後に動かなくなったところを捕獲され、水産高校に運ばれたものの衰弱死した。腹部に傷を負っていたという。

答志島に上陸。いざ池へ

鳥羽の佐田浜にある鳥羽マリンターミナルから定期船で上陸。島に港は三つあり、今回は南側の和具港へ。


和具港の空撮

この海を、まだ小さな稚魚だったオオウナギがひとりでスルスルと泳いできたのかあ。

神社への道

二つの港をつなぐ峠道。すぐに上り坂が始まった。
下の写真左の、ちょうどV字になった山の低くなったところが目的地。

神社に到着

標高25mほどで、海はといえば遠くちらっと見えるだけ。

鳥居をくぐり石段を登る

神社とお寺の入口が並んでいて、鳥居のある石段の方を登る。


石組護岸

石組みの護岸で水面との比高は2mほどあろうか。

池の流入路

国土地理院地図では、池の西隣に小さな谷があり沢が明示されている。
下写真の左側に見える水路のようなものがそれだろうか。水源としてはこれ以外には見あたらないが、どのように呑口までは確認できず。

吐き出し

吐き出し側の流出路は確認できなかったが、流出水路が海へに直接流れ出していなければ、オオウナギの侵入は不可能となる。謎すぎる。


池の直下にある広場ごしに、わずかに海が見える



 

オオウナギは「丑の日」に食べるウナギとは別種

オオウナギは食用にされるニホンウナギとはまったく別の南方種。最大で体重20キロ、体長2メートルにまで成長する。
おもに日本でも南の方で生息が報告されているが、三重県の鳥羽湾では例がない。
オオウナギ生息地として国指定天然記念物になっているのは和歌山の白浜、徳島の海洋町、長崎の樺島の三ヶ所。鹿児島の池田湖では市の天然記念物に。
一方、沖縄では公園池でオオウナギがふつうに泳いでいて驚いたこともあり、亜熱帯気候では珍しい存在でもないようだ。

与那国島の小さな川で岸から撮影したオオウナギ

bunbun.hatenablog.com


 

全国に見る巨大ウナギの池

ウナギに関しては全国各地に不思議な池が点在している。さまざまな事例を見てみよう。

オオウナギ生息の池でも、オオウナギでないケース

寺社池でありながら、海近くの天然池として天然記念物にもなっている「賢沼の大ウナギ」の場合は、前述の「オオウナギ」ではなく「大ウナギ」。蒲焼にするジャポニカ種の大きいやつ、という意味である。

bunbun.hatenablog.com

東北には「ゴマウナギ」なるものが生息する池が

岩手県八幡平の御護沼の池伝説に出てくるゴマウナギは、正体がよく分からなくて歴史ロマンがある。オオウナギ説もあるというが、どうだろうか。

bunbun.hatenablog.com

ありえない場所で見つかったオオウナギ

集落の中にある井戸。そんな首を傾げるような場所でメーター級の巨大オオウナギが見つかった前例としては、長崎県の樺島が有名。
ここは天然記念物にもなっているが、現在は八代目オオウナギも死んで無住。


bunbun.hatenablog.com

拙著『日本全国 池さんぽ』でも採りあげた



 

巨大ウナギはどこからやって来た?

それにしてもこれほど大きな魚がどこからやって来たのか。そして、こんな小さな池でどうやって成長し、何年も生き続けて来たのか。

オオウナギは海からやって来る

前記のケーススタディでは、オオウナギが小さな稚魚の姿で海から俎上してくるため、ほとんどが海のすぐ近くという立地だった。
そう考えると、ここ答志島でも海岸近くのこんな井戸なら、オオウナギがいてもおかしくない。

実際の立地は・・

現地に行ってみて驚いた。
オオウナギが見つかった美多羅志神社の池は、海岸から離れた山の中腹にある。とても海から魚が遡上してこれるような場所に見えない。



類似したケース

参考になりそうなケースとして思い浮かぶのは、静岡県伊東にかつてあった浄ノ池という小さな池。
すさまじい流転の歴史に翻弄された池だが、ここも海岸から離れた町中にありながら、オオウナギではないものの、さまざまな海水魚が泳ぐ池として天然記念物に指定されていた。
この池には水路が通じていることを、海からたどって調査したことがある。
その結果、池がある場所まで常時、水路にはたえず水の流れがあった。海面との比高も小さいので、大潮などの満潮時には一定レベルの逆流もあったと思われる。


bunbun.hatenablog.com


 

推論にも至らず

現地で少し歩いてみたぐらいでは、池のオオウナギの謎に対してまったく歯が立たなかった。
池の下で目に止まった東側の沢筋に注意をとらわれすぎていて、国土地理院地図に記されていた西側の水路を見落としていた。
ただ、この西側水路にしても、空撮写真、現地写真をいくら睨んでみても、和具港までの動線が見えてこない。次回は暗渠も含めてこのあたりをじっくり探査してみたいと思う。雨の日もいいかもしれない。
が、そこそこの勾配があるだけに、ふだんはチョロチョロ程度の水路も、ひとたび水が出ればあっとう間に急流になるだろう。どんな熱意をもってすれば、標高25mの池への遡上に成功するのか、あるいはこの個体以外にも夢敗れた同志がいたのか、数十年に及ぶ寿命のなかで若かりし日の挑戦への悔いはなかったのか・・ただただロマンが胸に迫る。


 

Google マップ