水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

賢沼(福島県いわき)

かしこぬま。弁天沼。

底なしの沼に大ウナギが棲息。国の天然記念物にも。

池畔に立つ賢沼寺は沼の名前がついているが、沼の方が「かしこぬま」と読むのに対して寺は「けんしょうじ」と読む。
寺の名になっているぐらいの沼であり、古くから沼に棲む魚、鳥の殺生はご法度。池にはその旨を伝える看板等は見あたらなかったが、禁を破った者には災いがあるとされ、地元では暗黙のルールだったのだろう。

底なしで枯れぬと云われた沼の悩み。

底なしでけっして枯れることがないと伝えられてきた賢沼だが、実際には最大水深5mほど。確かに周囲500mクラスの「沼」としては異常に深い。また、海岸からごく近い立地であるにもかかわらず、鬱蒼とした木々に完全に囲まれた景観は、あまり他に例を見ない。
流入量の少なく深い池では、最深部の水がターンオーバーできずに固定化し、酸素不足による水質悪化がしばしば問題となるが、賢沼でも高度経済成長期あたりから透明度が下がり、地元の工業高校が水を強制循環させるポンプを設置したり、閉塞していた流出河川を復旧させる取り組みもとられているが、2011年の東日本大震災では岸の一部が崩落する被害もあった。

大ウナギ群の生息地として天然記念物に。

日本国内で大ウナギと呼ばれているものは、蒲焼きで馴染みの深いジャポニカ種(ニホンウナギ)とは別種で熱帯性の「オオウナギ(カニクイウナギ)」であることが一般的。
オオウナギの生息地は西日本中心で、国指定天然記念物になっているのは和歌山の白浜、徳島の海洋町、長崎の樺島の三ヶ所。特に長崎の樺島で発見されたオオウナギは集落奥の小さな井戸に棲んでいたインパクトの強さで、たびたび全国ニュースでも取り上げられている。
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一方、賢沼で大ウナギと呼ばれている群体は全国的に見られるニホンウナギ。ニホンウナギは婚姻・産卵の際にはすべてがフィリピン沖のスルガ海山に向かうことが解明されているが、ここの個体は流出河川の閉塞によって陸封され、さらに地元漁師が大漁を祝う供物として漁獲物を投げ込んできたこと、この沼での魚類の殺生が禁忌とされていたことなど、特殊な環境要因の複合によって巨大化したと考えられる。
流出河川の閉塞がつづけば寿命による個体数の減少は不可避であり、近年は「賢沼ウナギプロジェクト」など新入りウナギの遡上環境を整える試みもなされてはいるが、かつて観光客をわかせたように錦鯉にまじってエサに群がる巨大ウナギの姿を目にできる日は、いつになるだろう。ウナギは成熟するまでに12年以上の月日を要する。ましてや1mを越えとなると。
さて、寺の前には比較的大きな駐車場があります。
境内へと歩き、その奥に控えた石段を降りると神秘の沼が姿を見せてくれます。


賢沼寺と天然記念物の碑。


浮身堂。昔はここから漁師さんが供物を投げ込んだのかな。


マークした場所は賢沼寺の駐車場。