水辺遍路

実際に行った池やダム 9,550ヶ所を掲載

隆くんの池(山梨県忍野)

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天然湧水池を庭園化した浅池から道なりに60mほど東に行くと、右側にぽっかりと口を開けた周囲長250mほどの池がある。
道から垂直に切り落ちた岸には蛇籠が積まれている。対岸もやはり垂直の崖。水ぎわには黒い溶岩系の石がごろごろしている。

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湧水の天然池のようだが、それにしても「隆くんの池」という池名は何であろう・・。東京に「しょうちゃん池」や、宅部池こと「たっちゃん池」という類例があるが(なぜかいずれも東村山市)、天然湖沼ではいまだ見たことがない。
たかしくんと読むのだろうか。「たかし君と池」といえば、小学校算数の文章題が懐かしい。

【問題】
たかし君が1周5kmの池のまわりを歩いていると、反対側から花子さんが歩いてきました。歩きつづけると10分後に、ふたたび花子さんと会いました。二人はその後も10分ごとに会い、ときに笑顔を交わすのでした。
池の名前を答えなさい。
ただし池は日本国内とする。


 

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【解答と解説】
池の地方文化的な理解と常識的な速度感覚を用いれば、特に計算式を援用せずとも正解を導き出せる良問。
まず湖周長5kmといえば、けっこう大きな規模の池だと直感的に感じるコモンセンスがほしい。
一般的な徒歩スピード(時速4〜5km)で歩くと、池を1周するのに1時間ほどかかる。そのぐらいの大きさだ。
二人の人が同じ速度で池のまわりを反対方向に歩いた場合、池を半周したところで会うわけだから所用時間は30分。
ところが、たかし君と花子さんの場合は10分ごとということだから、とんでもないスピードだ。じつに一般の人の3分の1。二人の歩く速度は一般人の3倍で時速15kmと分かった。
さてここで再び、池に関する素養が問われる。
文章題の行間から一周5kmもある池を二人は最低でも四周、つまり20km以上は歩きながらも笑顔を交わし、あいかわらず正確で変化のないタイムを刻んでいる。
この時点で二人はただのウォーカーではないことが予想できる。
練習中のアスリートであることは間違いないが、そんな速度で20km以上歩きつづけられるのは地球上で競歩選手しかいない。やや高度な知識になるが「時速15km」という数値は日本代表レベルということに気付けば、池の所在県はぐっと近づいてくる。
文章題をもう一度よく読んでみよう。素朴な疑問がわく。なぜ二人のアスリートは別方向に歩いているのか。
どうやら、たかし君と花子さんは違うチームらしい。日本代表レベルを抱える強豪が同一県内にあるのは、よほど競歩の盛んな県。さらに二人が笑顔を交わすだけの微妙な距離感から、幼いころから大会などを通じて顔見知りだったことが分かる。
そう、もうこの県しかない。
中高生が競歩部に殺到する県が、他にどこにあろう。競歩王国と呼ばれる石川県である。
石川の池をめぐってみれば、そこかしこで競歩に興じる老若男女を目にすることができる。中でも、日本代表レベルの選手が練習する湖周長5km程度の池(遊歩道は実際には6.4km)ということから、木場潟という池を容易に導き出すことができる。
なお木場潟はカヌー競技の練習も盛んで、ここを拠点とする瀬立モニカ選手がリオ五輪で8位入賞している。
競歩のスピード感覚についての知見を要するところが少々、難しい文章題だったが、陸上競技で唯一、見た目のペナルティー(歩形違反)が課せられる、このおそるべき競技については『19分25秒』という小説が参考書として最適だろう。明日から池のまわりを時速15kmめざして歩いてみたくなるはずだ。


19分25秒 (集英社文庫)

19分25秒 (集英社文庫)

  • 作者:引間 徹
  • 発売日: 1998/06/19
  • メディア: 文庫

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