水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

小淘綾之池(神奈川県大磯)

【こゆるぎのいけ。小淘綾ノ池】

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崖上の稲荷明神から見下ろした小淘綾之池


 

難読の池名から読み解く歴史

難読の池である。こゆるぎのいけ、と読む。
そういえば地元、湘南では店の名前などで「こゆるぎ」という名をときどき見かけてはいたが、池にも「こゆるぎ」があるとはずっと知らなかった。
地名としては「小由留木」「小余綾」「小動」など当てられた漢字は違うがいずれも「こゆるぎ」の読みで小田原から鎌倉にかけて見られるとのこと。そもそも、湘南の海岸自体を「こゆるぎの磯」とも呼ぶらしい。それにしても、池名の「小淘綾」も別漢字。
いろいろな当て字があるのは、「こゆるぎ」が忌まわしい過去を示す言葉だからか。その意味するところ、地震多発地帯。東京浅草のロストレイク、瓢箪池にそびえていた浅草十二階が崩落した関東大震災の震源もこのあたりである。

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池畔に立つ二つの石碑

高麗山は山腹に磯野池、善兵衛池、宮の人の池をはじめ、いささかあやしい魅力のあるマディーな池をたくわえている。
なかでも小淘綾之池は山頂近く、もっとも高いところにある山池。実は名主と地主の尽力で江戸時代に造られた由緒ある溜め池であることが、池畔の石碑から知ることができた。

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昭和八年の石碑

左側の石碑は昭和八年の建立。
その書き出しはズバリ、
「小淘綾ノ池ト命名ス」

池が造られたのは江戸時代末期の1855年だが、数十年ほどで破堤により放棄される。そんな状態が半世紀ほどつづいたのち、昭和八年に浚渫と改修工事で復活。
このとき小淘綾ノ池と命名したということで、オリジナルの名前は記されていなかった。
ちなみに関東大震災はこの命名の八年前である。

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堰体の天端はベンチと、池を見下ろせる屋根付きのあずまや

 

江戸時代の石碑?

こちらは達筆すぎる崩し字で読みづらい。
建立年がよく分からなかった。読めないから古いと考えるのは早計であるが、冒頭に刻まれた「相州 淘綾郡 東小磯村」という地名は明治時代には市町村合併ですでに使われていないので、江戸時代以前のものかもしれない。
「淘綾郡(ゆるぎぐん)」は律令制に由来する郡名。
なるほど「小淘綾之池」の漢字はそこからとったようだ。
碑文から何かヒントは得られぬかと目をこらすが、やたら位置と寸法の数字が多く、年号もあるような、それでいて池の話ではないような・・。
後ろから二行目に「神」という文字が見えるのが気になる。しかし読めない。国文学卒なのに申し訳ない。石碑画像は超拡大できるようにしておいたので解読できた方はご教授ください。

最大4Kサイズまで拡大可能ですが、4.5MBあります。


 

なんだかすごい、池まわり

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池をはさむ谷斜面にはお稲荷様

溜め池の横に稲荷明神の朱鳥居が林立する光景は、本家京都の伏見稲荷の谺ヶ池を彷彿させる。
谺ヶ池では池畔の熊鷹社に祈願をしたあと、池に向かって柏手を打ち、返ってきたコダマが託宣になる七不思議があった。
もしかして、ここ小淘綾之池の天端にあった屋根付きの無駄に立派にも見えた池見台は、パンパンやるところ??
それなら屋根まで付いて立派なのもうなずける。
次回、訪れたときはコダマが返ってくるか試してみよう!

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な、なんかすごいオーラ!


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左は本家、京都の伏見稲荷のパンパンスポット。右は小淘綾之池の推定パンパンスポット


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池畔道から稲荷への上がり口。大磯園こいずみの手前にある

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対岸側と奥にも鳥居と社

稲荷があるのは池の左岸側の崖の上だが、右岸側の山斜面にも鳥居が見えた。まるで池を囲むように神々が祀られている。
社まで行こうとしたが、いずれも一般住宅にあるような門で閉ざされ進めなかった。
立入禁止の看板設置者は、大磯園こいずみ。

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池のインレット側に、大磯園こいずみ

池の奥には大磯園こいずみという施設がある。池を借景にした好立地であるが、せっかくの山頂近くの山池に俗気を与えていることは否めない。しかし何ともいえぬ「いとあやし」感はこの建物のおかげで倍増している。
名から勝手に老人ホームかと思っていたが、食事施設だろうか? 訪れたときは閉まっていた。

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池の奥にのびた山道に設けられた門は開かれてはいるものの、竹林に立ち入りを発見したら警察に通報するという。看板設置者は、大磯園こいずみ

 

堰体下の小屋

堰体下にはブロック造りの小屋。
池から流下する水路は石組みも見られた。

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じっくり池ウォッチ

水量が少なく荒れていて現役は退役したように見える。
堰体は崩落箇所も見られたことから、今後、改修しても用途がないようならば廃池の可能性も。全国的に防災意識の高まりから使わなくなった溜め池の廃池が進められているだけに心配だ。

堰体

堰体を駆け上がる道が斜めに取り付けられているが、ちょっと見ただけでは堰体と分からないだろう。
池好きにとって、この上りはいちばんワクワクする瞬間でもある。

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堰体右岸下から


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堰体左岸の上から。右側の道は堰体天端にあたる


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堰体の崩落箇所


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洪水吐からの流下水路はコンクリート製。堰体基部の補強も見える

 

洪水吐

コンクリート製の洪水吐は昭和八年のものにしては新しすぎる気も。
直線ではなくカクカクと折れ曲がっているようにも見える。
水位が50センチほど上がった痕跡が土手側の草木に見て取れる。かなりの大増水で洪水吐のキャパをいっきに越えたようだ。

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中の島跡?

溜め池であると同時に神域として中の島も設けられていたようにも見える。
堆砂で島の形状は判然としないが、木製の橋を渡した跡があるだけでなく、崩れた灯籠のようなものも。対岸側からしか近づけないため、望遠レンズで撮影。

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壊れた木製の橋と、崩れた灯籠
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池へのアプローチ

小淘綾之池へのアプローチは少々、難しいかもしれない。
基本的には大磯から住宅地を抜けて高麗山頂上を南側からめざすイメージだが、池の300m手前の分岐に注意。
道なりは左方向に折れるが、実際には三叉路ではなく、もう一本私道があり、一見、立ち入りできないように見える。
分岐ではとにかく右に行く! 昔はこの辻に大磯園こいずみの道標が立っていてそれに従えばよかったが、私が訪れたときは看板が割れて地面に落ちていた。とにかく右。
全行程、舗装路ではあるが住宅地を抜けることや、分岐の先で道はかなり狭くなるので徒歩か自転車、オートバイがおすすめ。
400m南西にある善兵衛池や西側山麓の磯野池も合わせて訪れたい。

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アプローチ路。左側の水路は池から流下。


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池の手前はけっこう狭い


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堰体のヘアピンカーブ


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池畔の道


 

南アルプスにも、類似フォーマットの池が

溜め池と朱鳥居が連なるお稲荷さんがセットになっている類似構造は、南アルプスの能蔵池にも見られる。
この池に柏手とコダマの占いの言い伝えがあるかは分からないが、中の島にある石は願かけ占い要素がある。京都の伏見稲荷の「おもかる石」ときわめてよく似た占いフォーマット。

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Google マップ