水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

河口湖 吐き出し(山梨県河口湖)

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山梨屈指のレジャーレイクである河口湖については、湖畔にある道の駅を中心にすでに紹介したが、ここはあえて吐き出し部だけを採り上げたい。
というのも、河口湖には、もともとは吐き出し(流出河川)がなかったのである。
ふつうの湖沼というものは、山から流れ込み、低地に向かって吐き出している。
しかし河口湖は、山に向かって吐き出しがある。
三本ある吐き出しはすべてトンネルで山をくぐり抜けている。
この有名な湖の知られざる顔を見ていこう。

 

木の樋でもいいから、とにかく川につなげろ

建設省(現・国土交通省)の河川畑にいた父が、昔、おもしろいことを言っていた。
ふつう池や湖は法律的には「河川」の一部として扱われ、管理や治水予算があてがわれるが、流出河川のない河口湖は法律的にはただの水たまり。洪水が起きやすいのに、河川畑の父たちには何もできない。
それなら「木の樋でも何でもいいから、とにかく川につなげろ」と言って、ビックリされたそうである。木の樋なんて、江戸時代の工法。
無茶を言っているように聞こえるが、どんな方法であれ川につなげてしまえば河口湖を法律的に「河川」として扱えるので、治水工事などの予算を付けることができるとの理屈だ。
詳細な話は父も歳をとってきたので正確性に疑問がないでもないが、後述する江戸時代の農業用トンネル水路に目を付けた作戦だったようである。
現在、河口湖は嘯治水トンネルが山をくぐって桂川の支流に接続され、晴れて一級河川相模川ファミリーの一員となっている。

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河口湖の吐き出しがある東岸は山が迫っている。


 

1本目のトンネルは江戸時代・・新倉掘抜

なんと日本最長の手掘りトンネル

調べてみると、河口湖の水を山向こうの富士吉田の農地に送るため、早くも江戸時代に用水トンネルが掘られている。
その長さは3.8kmもあり、日本最長の手掘りのトンネルとのこと。
河口湖新倉掘抜(あらくらほりぬき)といい、現在は遺構が残るだけで現役は退いている。
手掘りの導水トンネルといえば、芦ノ湖(神奈川県)の水を山をブチ抜いて静岡県側に引っ張りこんだ深良用水や、猪苗代湖の水を会津若松に引いた戸ノ口用水があるが、トンネル長はそれぞれ1kmと150m。
新倉掘抜のスケールと強引さは格違いである。

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呑口部にある資料館

温泉街の一角に新倉掘抜の資料館がある。昭和の珍宝館みたいなあやしげな雰囲気が素敵。
素掘りトンネルの内部も見学できる。有料。

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完成まで170年!

増水に悩まされ治水をのぞむ河口湖側の住民と、山を隔て渇水に悩む新倉村民とが、嘯山の両側から掘りはじめた。しかし掘り進めた方向のズレが大きく開通には至らず、後年に再起をかけることになる。
河口湖側からすれば治水トンネル、新倉側からすれば用水トンネルと、違う目的のために一本のトンネルを掘ったところが美しい。

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山の反対側の吐口部は史跡に

水路トンネルの吐口は新倉の弁財天内に現存しているが、大正時代の1913年に新トンネル完成によって役目を終え通水はしていない。トンネル出口はゲートで封鎖されている。
一本のトンネルではあるが、河口湖側の呑口には「河口湖掘抜」、こちらの吐口は「新倉掘抜」と、それぞれの土地の名で呼んでいるのがおもしろい。まぎらわしいので両方の名をとって「河新掘抜」にでもすればよさそうだが、江戸時代からの因縁なのでそうもいかないのだろう。
アクセスは国道137号線の新倉交差点から、おひめ坂通りに入って300m弱で有料道路の高架をくぐったまさにその場所、ガード下が史跡への入口。

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史跡への入口。奥に行くと駐車スペースがないので、高架下あたりに駐車するしかない。



 

二本目は大正時代に発電用と農業用の導水トンネルが

かつてGoogle マップに「鹿留発電所嘯水路呑口部」と記されていた場所に行ってみると、ちょっとややこしいことになっていた。
農業用水の取水口(呑口)と、水力発電用の呑口が並んでいる。
これが二本の別のトンネルなのか、一本を供用しているのか現地を見ただけでは分からなかった。
かんがいと水力発電とでは運用がまったく異なるので、どう共存しているのかが気になる。
このトンネルは現役。

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これが河口湖の吐き出し。人工と思えぬ感じでしっくり溶け込んでいるが、この先、すぐにトンネルとなる。

 

農業用の呑口

農業用の方は南側。湖側に操作小屋、山側に記念碑があった。

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この水路の奥は山でふさがれて、こんな感じ。水門と記念碑が見える
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水力発電用の呑口

鹿留発電所船津取水口」との標識がある。
個人的にはかつてGoogle マップに記されていた「鹿留発電所嘯水路呑口部」の呼び方の方が好きだが、削除されてしまったのは間違いだったのだろうか。

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誤って人が呑みこまれたら山の向こうまで出てこられないので、なんとも厳重な防御体制
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ここにあった河口湖の案内マップはかなり気合が入っている


 

三本目(四本目)は、昭和の治水トンネル・・嘯治水トンネル

小曲展望広場をはさんで300mほど北の湖岸に、治水用トンネルの入口にあたる吐き出しがある。
広大な河口湖の水位を1日で1センチ下げることができるだけの能力を持っているとのこと。

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河口湖の過去の大増水の水位が記された標柱が、嘯治水トンネル呑口の近くにあった


 

嘯治水トンネル近くは釣り人も多い

駐車場やボートのりばもあり、岸にもアクセスしやすいのでオカッパリポイントになっているようだ。
ただ、泥が深くウェーディングは危険らしい。トイレに釣り人への注意掲示があった。

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現役トンネルの吐口部は壮観

新倉掘抜の入口から800mほど、おひめ坂通りを東に進むと水路をまたぐ。
この水路が、発電用トンネルと治水トンネルから流れ出たもの。水路をさかのぼっていくと発電と治水の合流部を経て、目の前の山腹に壮観な人工滝が見える。これが発電トンネルの吐口部。

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周辺の景観

温泉街になっているだけあって、遊覧船や駐車場も充実しており、公園にも事欠かない。

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河口湖のレジャー

全国的にもユニークなブラックバスに対する姿勢をはじめとする河口湖のレジャー面については別ページに記した。

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Google マップ

マークした場所は嘯治水トンネル横の駐車場