水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

菅又調整池(栃木県那須烏山)

すがまたちょうせいち。
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「調整池」という名のコンクリダム?

「調整池」という名で堤高30mクラスの重力式コンクリートダムとなれば、ちょっとした珍物件といえよう。
調整池といっても町にあるような防災用ではなく、貯水目的の農業用調整池であり、案内板を見るかぎり洪水調節機能は有していない。
堰体直下に川がないことでダムマニアたちが騒然となっているが、減勢池の先が導水トンネルになっているためこのような外観になっている。地図で見れば分かるように流出河川は存在し、およそ1.5km下流で菅又川に合流している。
ただ、もともと小さな沢はあったと思われるが、なぜトンネルにする必要があったのかが分からない。非常用洪水吐で想定されている最大放流量に対して、もともとの沢のキャパシティが小さく、何らかのバイパス措置を行なっている可能性もある。

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なぜ農業用ダムではなく「調整池」なのか?

どう見ても立派なダムである。「ダム便覧」にも掲載されている。
なぜ「菅又ダム」や「菅又貯水池」ではなく「菅又調整池」なのか。
普通のダムなり溜め池においては、取水した水は河川や用水路を通じて圃場に供給される。
しかし菅又調整池は堰体下左岸側に菅又揚水機場があり、取水口から落ちてきた水をわざわざポンプアップして、より高所にある配水池(吐水槽)に送っている。
一度落とした水をもう一度ポンプで揚げるぐらいなら、取水塔を設けてそこからポンプアップすればダムの落差分の電気代が節約できそうな気もするが、何か事情があったのだろう。
しかしダムではなく調整池という点について、利水にポンプネットワークを使っているというだけでは少々もの足りない。

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カギは地形?

地図で見ると池の形状は複数の流れ込みによるワンドがあり、いかにも集水能力が高そうに見えたが、いざ現地に立ってみると、低い丘陵がワンドを刻んでいるだけで(上の写真)、背後に山や水源林を従えておらず集水地形にはなっていない。
それなのに、ここまで大がかりな重力式コンクリートダムを据えたのには理由があるはず。
航空写真を拡大してつぶさに見ていると、いちばん北側にあるインレットの奥に、ポンプによる水の吐出口のような施設が見えた!
離れたところを流れている菅又川の水をポンプアップしている可能性もあるのではないかと思った。
池に入る水もポンプ、出る水もポンプといった高度な配水運用は、近くの塩田調整池(芳那の水晶湖)でも行われている。

bunbun.hatenablog.com


 

河道外貯留施設

離れたところにある河川からポンプアップした水を貯水する池には「河道外貯留施設」というようだ。
上水道用としては兵庫県の神谷ダムがビッグスケール。
揚水式発電用貯水池の上部貯水池は「河道外貯留施設」最大のお得意さまといえるが、迫力という点では兵庫県の太田池がすごい。

bunbun.hatenablog.com
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ダムカード

現地で配布する直接方式ではなく、郵送による間接方式ながら、なんとダムカードまであるそうだ。
発行しているところがおもしろい。農業従事者団体の土地改良区。
関連する取水堰である森田頭首工のダムカードもあるというから、いかにも土地改良区らしいこだわりを感じる。

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今後は防災機能も?

このダムを訪れた日のニュースで、栃木県でも農業用ダムや電力ダムにも防災機能を持たせる制度について報じられていたので、このダムも今後はそうなっていくのだろう。
ただ、貯水用ダムの非常用洪水吐はゲートレスの自然越流が多く、大雨の際の計画的な放流コントロールが難しいため、大雨が予想される時期には事前に水位を大きく下げておく必要がある。貯水目的のダムにとって、せっかく貯めた水を利用せずに捨てるわけだから損失が生まれる。この損失分を行政が補填するというものだった。


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駐車スペース


 

Google マップ

マークした場所は駐車スペース。