日本唯一? 池の中を練り歩く奉納芸能。
豊臣秀吉にゆかりのある長浜八幡宮の境内中央に設けられた寺社池。岩と石を多用した庭園風の凝った作庭が施されており、石橋が渡された島には六角堂が立つ。
周囲長は100mに満たず、水深はせいぜい膝から腰ぐらい。しかし吐き出し口をよく見ると、あえてその程度の水深を維持するように工夫されていた。
昭和23年までおよそ2km離れている八坂神社の弁天池で行われていた「永久寺の蛇の舞」が、ここ長濱八幡宮の放生池において毎年、お盆の行事として引き継がれている。地元が掲げるキャッチフレーズによれば、日本で唯一、池の中で行われる芸能だという。
池の中に入って神事を行なう池のお祭りは、静岡県の桜池、愛知県の丸池など他地域にもある。ただ池の中を蛇の張り子が練り歩き、火を吹いたりするスペクタクルという意味では他例をみないかもしれない。
また、この芸能の道具や作法を守ってきたのが「蛇組」という地元でもごく限られた世襲のグループである点はおもしろい。
長浜の盆行事として定着した感のある永久寺の蛇の舞は、8月15日の夜、蛇組によって長浜八幡宮の放生池で繰り広げられます。この厳かで神秘的な舞は、かつて永久寺町の八坂神社の弁天池でも舞われていたようです。頭や胴部、鉾など一式を納める木箱の表に、「延享四年(1747)」の墨書があることから、江戸時代には雨乞い行事として行われていたことがうかがえます。
伝承する蛇組は9戸、長男が世襲で継承する決まりであり、毎年交替で宿を決め、関係文書や蛇の舞の道具一式を新しい宿に送ります。
現在使われている蛇は、平成17年度、文化庁の支援事業によって制作されたもので、オリジナルは長浜城歴史博物館に寄託されています。今年の正月には、巳年のシンボルとして曳山博物館に展示され、注目を集めました。
興味深いのは、「蛇」と呼びながら姿は空想上の霊獣「龍」であることです。これは日本人の蛇に対する神聖視と忌み観が微妙に混濁している結果かもしれません。白い蛇や短くて太いノズチなどは、弁財天や山の神の使いとして神聖視する信仰がありますが、一方で蛇は、指さすと指が腐るので噛まなければならないといった忌み行為が残っています。日本人の感覚では、蛇はやはり地上もしくは地中にいるものです。雨乞いなど、人々の祈りを伝えるために、天上界へ昇天するという聖なる行為を行うためには、蛇ではなく、海中の竜宮城に棲み、天を駆け巡る霊獣「龍」に変身する必要があったようです。
蛇の舞の場合でも、最後の三幕では、蛇が昇天して雨を降らせ閉幕となります。蛇は弁天堂の幕の中から池の端の松の梢に綱が渡され、火薬の推進力で火を吹きながら昇天するのです。ところがこの龍にしても中国の龍とは異なります。永久寺の蛇(龍)を見る限り、頭には鹿のような角、猪を引き延ばしたような顔、大きく裂けた蛇のような口、そして全身をびっしり覆う鱗など実に特徴的な姿をしています。永久寺の蛇は雨乞いの習俗だけでなく、日本人の霊獣観を知る上で貴重な有形の民俗文化財と言えるでしょう。
(『広報ながはま』平成25年8月1日号より)
池の吐き出し部に注目しました。
石製の戸溝に木製の止水板。板には細い溝が切られ、流出量を調整しています。よく見ると水位が上がるほど流出量が増えるよう、溝が大きくなっています。これぞ元祖、オリフィスといえそうです。
マークした場所に駐車場。