水辺遍路

訪れた全国1万1,100の池やダムを独自の視点で紹介

神楽堤(岩手県北上)

かぐらつつみ。
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岩崎農場溜池へのアプローチ路を探して、周囲をハイエースでぐるぐるまわっていた際に、たまたま通りがかりに見つけた池。
ちょうど通学時刻で小中学生がちらほら歩いている。タイミングが悪いことに、この数日前に新潟県で通学中の小学生女子が連れ去られ線路に遺棄される事件が起こったばかり。
これ以上、この時間帯に他県ナンバーのハイエースがうろうろしていたら、通報されてもしかたない。二周回目にアプローチをあきらめて空撮に切り替えた。
空撮後、そろそろ通学の児童も学校に納まった頃合いかと思い、途上で気になっていたこの池にもどった。駐車スペースはないことはないが、民家がぽつぽつある直角の曲り角なのでハイエースは少々、目につく。
ちょうどクルマを降りたとき、誰もいない道に一人の女子中学生がこっちにむかって歩いてくるのが見えた。気まずすぎる。
こちらはただ漫然と池をめぐっているだけなのであるが、ただ歩くにしても誰しも何かしら明確な目的を持っているこの時代、平日の朝がたから漫然としている人間は危険視される。いずれにしても、新潟の事件のおかげで迷惑千万。女子中学生の方も、そうとうビビっているだろう。
こうなったら気づかない振りを決め込み、池端に立つコンクリート製の鳥居を見上げたりして「嗚呼、なんとも立派な鳥居であることよ」などと心にもない慨嘆をもらしたりして女子生徒が通りすぎるのを待つが、いや、これではかえって逆効果。

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そのときである。背後から思いもよらず、鈴のような晴朗な声が、
「おはようございまーす」
風のような笑顔を残して通りすぎていった。
そういう土地もあったということに軽く驚きながら、あらためて池と対面する。
この一帯では池に「〜溜池」という名が与えられているが、秋田、山形では主流の「堤」名の池も市内などにちらほら見られる混在エリアである。名前から古い時代の溜め池を想像していたが、昭和16年の築造だった。
神楽というゆかしい名も、特に土地にゆかりのあるものではなく、時の県知事が命名したものだった。
堰体は明瞭でなく、池端を通る道路よりも水面は低い。小さな池だが中堤が一本、山に向かって通され、先ほどの鳥居が構えている。土の岸を植物が埋めている。案内板によると、マツカサガイが生息しているようだ。イシガイの仲間でタナゴの産卵床にもなる。
左手の小さい方の池はアシでほぼ覆われ、小さな島には立派な枝ぶりの松が赤い樹皮を見せていて、ちょっと不思議な感じである。杉木立を後背に、岸に一列の落葉樹が配され絵ごころをくすぐられる。あるいはタナゴでもいてくれればと思いつつ池を後にした。

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Googleマップには池としての記載がない。航空写真に切り替えると池が確認できる。