アヤメ池。池の平湿原。
標高2千m。百名山・浅間山にいちばん近い天空の池。
2018年8月30日、3年ぶりに浅間山の噴火規制がレベル1に引き下げられ、登山できる日を心待ちにしていた浅間山ファンを喜ばせた。
西稜にいくつかの火山を従える浅間山だが、火口湖らしきものは特に見あたらない。
そんななか、標高2,000メートルの池の平湿原は、三方ヶ峰の古い火口の中に長い時間をかけて生まれた湿原である。噴火が落ち着いたあとは火口湖が形成されていた時期もあったと思うが、南東側の火口壁が崩落しているので(放開口)、おおかたの水はここから流れ出てしまったのだろう。
天空に生まれた広い湿原はそんな太古の火口湖の名残りのようにも見える。そんな湿原も長い時間のなかで乾燥が進み、笹が生い茂る野原へと容貌を変えつつある。「池の平」という名からも、かつてはいくつも穿たれていたであろうと想像される池塘も、今はこの鏡池を残すのみになっている。
池の近くにはマツムシソウが群生しているが、ハイキング路の一角にあった道標には、鏡池ではなく「アヤメ池」という表記もあった。同じ池を指していると思われるが、なぜ鏡池になったのかは分からない。
登山口には協力金が必要の未舗装駐車場とトイレがある。ここを起点に外輪山と湿原をぐるりと歩くと2時間ぐらいだろうか。道は整備されていて本格装備までは必要なさそうだが、若干のアップダウンはあり汗はかく。
池を目的に歩くなら時計まわりに進めば、すぐに湿原の木道に入るのでアプローチしやすい。外輪山側は汗をかくかわりに、池と湿原を一望に見おろす眺望というご褒美がある。
放開口から見て、湿原のいちばん奥まったところの山ぎわに鏡池がたたずむ。三方ヶ峰から流れ落ちる表層水や伏流水がたまりやすい位置なのだろう。
緑の草原にぽっかり空を映しだす小さな池は、確かに山の神の手鏡を思わせなくもないが、木道で近づいてみると思ったよりミラー感はない。鏡池という名の池は全国で見られるが、ある程度の深さをもっていることがミラー感を演出する条件のように思うが、ともすると水が涸れてしまいそうなこの池はアヤメ池の方がしっくりくる。
植物案内板を眺めていたら、イワカガミ(岩鏡)という植物が出ていた。ああ、この名をとったのかな。
池では食虫植物のモウセンゴケも生息しているということである。
マークした場所が、池の平登山口の駐車場。トイレあり。協力金必要。池には徒歩で30分ほど。