あこぎがうら。
フェンスさえもがミステリーに感じてしまう池。
そもそも池の名が不思議だ。最初は海岸の名と間違えているのかと思った。しかし海は1kmほど離れており、間違える距離ではない。
池のほとりは阿漕ヶ浦運動公園として整備されているが、池はフェンスに囲まれ近づくことができない。訪れた際は工事中ということもあって、フェンスに近づくことさえできず、歩きまわった末、ようやく遠目に池を見ることができた。
池岸の一角で小高くなっているところに立つ桜は、東海十二景のひとつ「阿漕ヶ浦夜桜(あこぎがうらやおう)」というローカル桜名所にもなっているので、工事さえなければ、池を見おろせるこの場所がいちばんよく見える場所だろうか。
それにしても、伝説も多く公園の主役を張っておかしくない池であるのに、この奇妙な隔離ぶりはなんであろう。
池に棲む海牛が人を池底に引きずりこむという伝説のせい?
ほかにも伝説の豊富な池で、大蛇あり、白ウナギあり、水底で機を織る女というのまであるから池主の総選挙ができそうなほど。
池に棲む魚についても、江戸時代に伊勢神宮へのお供えもの専用の禁漁区で生け捕りにした魚を、はるばる運んできて放流したものの、なぜかすべて片目になっていたという。
こんな苦労をして遠方の禁漁区の魚を持ってきたのは、水戸黄門こと徳川光圀の発案でこの地に伊勢神宮レプリカを造ったことに起因する。
本家・伊勢神宮の御用達漁場が現在の三重県津市の海岸部にあり、ここがオリジナル阿漕ヶ浦である。池ではなく海。一般の漁は厳しく禁じられており、病の母のために禁をおかし、くり返し魚を獲っていた男が簀巻きにされ処刑されてもいる。
強欲な、という意味で使われる「あこぎ」の語の由来となってしまったのは気の毒な気もするが、もともとは隠し事もくり返し行えば露見するとの意だったようである。
「神様への供物となる海水魚の養殖池」というのがこの池の正体で、厳重なフェンスの意味もなんとなく見えてきた。伊豆半島の神池や奈良県の明神池など、魚を獲った者は死ぬといわれている池があるが、ここレプリカ阿漕ヶ浦もそのたぐいか。禁を破った者は簀巻きで死罪という認識はあったろう。
ここで疑問なのは、津の海岸であるオリジナル阿漕ヶ浦から連れてきた海水魚を淡水の池に入れて大丈夫だったのか、という点。
なんでもこの池は、流入河川がないのに一度も水が涸れたことがなく、またもや伝説の話ではあるが、池に落とした打出の小槌が7km離れた日立市の泉ヶ森の湧水池から出てきたとか、さらに10倍遠く70km離れた福島県いわき市の賢沼と地底でつながっいるというスケールの大きな話もある。
水が涸れない謎については最近の調査で豊富な地下水が水源となっていると分かった。しかしこれでは海水魚を育てられたとは考えられない。
ただ、調査でもうひとつ明らかになったことがある。この池の水が砂礫層を通じてたえず海に流出していた。
池と海岸は現在、1kmほどの距離であるが、地下でどこかにつながっているという伝説にヒントを求めれば、江戸時代にはもっと海が近く、地下の砂礫層を通じて潮の干満の影響を受けていたのかもしれない。
とにかく、厳重なフェンスで近づけないことも含めてミステリーな魅力のある池である。
駐車場、トイレあり。国道からも近くアクセス性もよい。
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マークした場所は駐車場。