水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

朱鞠内湖(北海道幌加内)

【しゅまりないこ / 雨竜第一ダム(雨竜ダム)】

9月13日、ヒグマ事件後4ヶ月ぶりに釣りが解禁

2023年5月、ベテラン釣り人がヒグマによって頭部をもがれた遺体で発見された衝撃的な事件後、4ヶ月にわたって釣り禁止となっていた朱鞠内湖で9月13日に釣りが解禁となった。熊が原因で有名釣り場がこれほど長期にわたり釣り禁止措置がとられた事例は他に知らない。

日本一広い人造湖は、幻の魚「イトウ」釣りのメッカ。しかし熊事件のメッカという側面も

淡水人造湖として湛水面積では日本最大を誇る朱鞠内湖。地図を見ただけでも、その威容は伝わってくる。これだけ巨大な人造湖ではあるが、主堰体は意外に小さい。北海道ならではの雄大な地形によるマジック。ただ数ヶ所で尾根の高さが足りないところがあり、そこには副堤の土堰堤が設けられている。
ダム湖ができる以前に朱鞠内の沢に生息したメーターオーバーのイトウの楽園をめざし、官学連携での保護育成が行われており、遊魚料、尾数制限、シングルのバーブレスフック使用、リリース義務などのルールは厳しいが実績は高い。
2023年の熊事件を経て、新たな朱鞠内湖ローカルルールが策定された。



日本一厳寒の地であり、日本一のソバの里

朱鞠内湖の一角、2023年の熊事件があった場所に近い母子里(もしり)地区では、昭和53年にマイナス41.2℃の日本記録を打ち立てた。
朱鞠内湖のある幌加内町は生産量日本一のソバ産地でもあるが、ダム湖の水は竣工当初はかんがい用にも利用されていたので、あるいはソバ畑を潤していたのかもしれないが、用水路などはまだ確認できていない。
ちなみに本州最厳寒を謳うのは、岩手県の岩洞湖。


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日本一カタチが複雑な湖沼の最有力候補?

日本一複雑で入り組んだ湖沼ってどこだろうと考える時、香川県の満濃池とここ朱鞠内湖がまず頭に浮かぶ。で、実際のところどうかというと、湖岸形状の複雑さを示す指標である肢節量は4.8(「朱鞠内湖(雨竜第一ダム)における水質変動とダム湖としての陸水学的特性」)とのことで意外にも低い数値。(数値が高いほど複雑)
同論文によれば湖水の滞留時間は 17.3年! これも地味にすごい。
天然湖沼では福井県の武州ヶ池が肢節量8.25で日本一(環境省「全国湖沼調査報告書」1993)。でも二つの湖を地図で見比べてみたら、どう見ても朱鞠内湖の方が複雑に見えるんだけど。
ついでに合っているか分からないけど、自分で満濃池の肢節量を試算してみたら、だいたい4.7だったので朱鞠内湖とほぼ同じ。
でも、武周ヶ池はどうして8.25という突出した数値になったんだろう・・。まさか国の報告書が計算間違い?


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貯水池の構造

コンクリートダムと土堰堤のダブル

アースダムの雨竜土堰堤も重力コンクリート式の主堰堤(雨竜第一ダム)を東側からアシストしており、なだらかな地形を生かし二つの堰体で広大な貯水池を堰いているかっこうだ。他にも副堤があるという情報もある。

圧倒的な貯水池の規模に対して主堰体は拍子抜けするほど小さい


隣の宇津内湖とを結ぶ1kmの連絡水路

西隣の宇津内湖との間には連絡水路があり通水している。下の空撮写真では奥深くまでのびた樹枝状のワンドの奥にコンクリートの通水口(橋)が見える。水の色は二つの湖でまったく異なっていた。通水部に直接行ってみたかったが、アクセスする林道はチェーンゲートで一般車両は入れない状態だった。



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取水口(発電専用?)

堰堤からはかなり離れた場所に取水口がある。これは北海道電力の発電専用の取水口のようである。かんがい用の取水口は別にあるのだろうか。




 

朱鞠内湖の景観

全景空撮(2023年撮影)

南岸ボート乗り場からのパノラマ

5月の東側ワンド部(2014年撮影)



 

イトウは朱鞠内湖では、もはや幻にあらず?

ボートや渡船利用で釣りを楽しめる

イトウ、サクラマスの放流も行われており、ボート主体で釣りもさかん。入漁料1000円。
地元の人によると、ふつうにイトウが釣れるそうだ。曰く、イトウは馬鹿だから何度でも同じ場所で釣れる、と。夢のような話である。
カヤックなど人力船は復路を意識して。この巨大な湖、風向き次第では帰着できなくなることもあるというから注意したい。
対象魚はほかにアメマスも。

冬は氷上ワカサギ釣り

運がよければダイヤモンドダストも。


 

朱鞠内湖の施設・設備

つりけんくん


湖畔キャンプ場

車中泊も有料。遊泳禁止。


南側の展望駐車場と案内板




 

マップ

現地案内マップ(鳥瞰図)

朱鞠内湖の漁業権遊漁規制区域図

池さんぽマップ

Googleマップ

マークした場所はキャンプ拠点。


 

2023年5月、釣り人が熊に首をもがれる食害事件が発生

クマにも慎重だったベテラン釣り師に何が?

2023年5月中旬、渡船で対岸に渡り単独で釣り(フライフィッシング)をしていた50代の朱鞠内湖リピーターのベテランアングラーがヒグマに襲われ、性別不明の頭部、つまりかなり損傷した状態の頭部だけの状態で見つかった。
渡船の船主は釣り人を迎えに行った際、ウェーダー(胴長)をくわえて闊歩する熊を目撃し警察に通報している。翌日に熊は駆除された。
熊の胃からは骨と肉片が見つかり、釣り人の頭部発見場所から50mほど離れた場所に草で隠すように損傷の激しい首なし遺体が発見されている。これはこの一帯で、ちょうど100年前の5月に40代男性がヒグマに首をもがれて喰われた事件と奇妙な一致を見せる。
現場となった母子里(もしり)のワンドでは5月初めからヒグマの足跡や目撃情報が出ていた。被害にあった釣り人は過去に熊を警戒して出没ポイントから引き返すこともあったベテランだけに、いったい何が起こったのか今後の捜査と解明が待たれる。

 

ぴったり100年前の5月にも、首なし死体が

朱鞠内湖から海にかけての山地は明治時代の開拓以来、凶暴な熊による殺害・傷害事件が多発しており、驚いたことに1923年(大正12年)5月、つまり今回の事件からぴったり100年前の同月にも四十代男性の首なし死体が見つかる熊の食害事件が発生している。
現場については「温根別村」「北線」という地名が当時の北海道タイムスの記事に見られるが、温根別ならば朱鞠内湖の南25kmに現在、温根別ダムがある。あまりに寂寞とした湖のたたずまい、ひょっこり対岸に熊が現れそうな雰囲気を覚えている。
「北線」なら、その名も北線ダムが朱鞠内湖のわずか2km南にある。こちらが現場だとしたらあまりに近く、100年前のタイミングだけに偶然のかさなりが怖い。

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同じ年に史上二番目の死傷者をだした熊事件も

温根別北線の事件から三ヶ月ほどたった八月、朱鞠内湖の東方面にある雨竜郡沼田村字幌新で(ちなみに朱鞠内湖のダム名は雨竜第一ダムである)、夏祭り帰りの一家が熊に執拗に襲われ、死者4名とケガ人4名をだす惨劇が発生。
これはもはや完全に人間の肉、特に内臓に強い嗜好を持った異常な熊の行動といえ、地理的にも三ヶ月前の事件と同一の熊による凶行の可能性もあろうか。
北線事件で見つかった遺体は、首を引っこ抜いたところから「ツボ抜き」のように内臓を引っ張り出して食べたのではないかと推測されている。首は遺体が腰掛けるようなかっこうで尻の下にあったという。


史上最悪のヒグマ死傷事件は40km西側が現場

朱鞠内湖から40kmほど離れた西麓側の三毛別では、日本史上最悪の死傷者数を出し軍隊まで出動する騒ぎとなり、『羆嵐(くまあらし)』という小説にもなった凄絶な熊事件も起こっている。
現場近くには苫前ダムがある。

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史上最悪の熊による殺害事件の現場である苫前三毛別の現場跡を2003年に初めて訪れた際の写真。熊オブジェの姿が見えたときは、心臓が止まるかと思うぐらいドキッとした。



背後から襲ってくる「ツボ抜き」熊の子孫?

2023年の事件で駆除された熊は本当に主犯?

2023年5月の朱鞠内湖の熊食害事件では「首のない損傷の激しい遺体」という情報しかないが、マタギを含め多数を襲った100年前の「ツボ抜き」熊の血を受け継いだ子孫の可能性はないのかと勘ぐってしまう。
熊事件の幕切れを見るにいつも思うことだが、たやすく駆除されるのはおこぼれに預かった能天気な熊だったりして、主犯格の熊はいまだどこかをうろついているのではないかとビビってしまう。
せめて過去の事件から何らかの教訓を得たい。

ベアスプレーは高価だけど試し撃ちを

2023年は朱鞠内湖と宇津内湖との連絡水路を見に行きたいと考えているが、確かあのあたりは車止めゲートがあって徒歩で行くしかなかったような・・。
現場に着いたらまずは最強の熊スプレー「カウンターアソールト」の早撃ち練習をしていこう。
1万円超と高価なスプレーだけに試し撃ちはフトコロにこたえるが、いざというとき、そして慌てているときこそシュパっと流れるように正確な動きができるよう体に覚え込ませておかないと意味がない。スプレーのテストも兼ねて定期的な試射も必要な投資だろう。


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見落としがちなホルスター

もうひとつ見落としがちなホルスター。
早撃ちガンマンよろしくホルスターは、いざというときスチャッと落下防止のバンジーコードをはずし、シュルッと引き抜いたスプレーを確実に相手に向けて構える上で便利。
ザックの手の届かないところにやポケットに入れたら、いざというとき意味なし。手に持って歩くのがベストだけど、そうもいかないときはホルスターが便利。とはいうものの数種類試したけど、どれも今ひとつ。
高くてなかなか踏み切れなかったけど、早撃ちガンマンの間で評判の高い(?)「ミステリーランチ」ブランドのものを導入しようと思う。