水辺遍路

訪れた全国1万1,100の池やダムを独自の視点で紹介

在家堤(青森県八戸)

【ざいけつつみ。田面木堤、田面木ため池】

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中の島にある竜の口から水がほとばしる。

四車線の主要国道沿いの市街地交差点。信号待ちでふと横を見ると池がある。カーナビに目を移すと「田面木堤」と池名も。八戸は北海道へ渡航するフェリーがあるので数年に一度は行っているが、夜に通過することが多く、町中にこんなおもしろそうな池があることに今まで気がつかなかった。
朝の通勤時間だったので交通量が多く、信号が青になって後髪引かれる思いでクルマを発進させたが、周辺にクルマを停められそうな場所がなかなか見つからず、けっきょく車載の折りたたみ自転車トレンクルでかなり戻るかっこうになった。
まず目を引くのは松の木陰で水を吐き出す巨大な竜の頭。よく見ると中の島になっており、赤い太鼓橋、鳥居、祠に、3mはあろうかという石碑。これだけ立派な石碑ならば池の由来や竜像の由来などのヒントがありそうだが、残念ながら赤い橋は封鎖されて島に渡ることはできなかった。
池のまわりは徒歩か自転車なら一周する道が付けられているが、建物がぎっしり池まぎわまで迫る。水面は宅地および国道より2mほど低く、池のまわりを住宅造成時に盛り土したのかもはや堤がどこにあったのかは分からないが、江戸時代に築造された溜め池とのこと。カーナビには地名をとった「田面木堤(たものきつつみ)」の名で表示されていたが、現地の案内板には「田面木ため池」の表記もあった。ただ、地元の資料では在家堤が正式名とあったので、当稿ではこれに従った。正式名の由来は池のあたりが「在家(じゃあいけ)」と呼ばれてたことによる。
「じゃあいけ」という音感と竜像から連想するのは、「蛇池(じゃいけ)」。平地にある皿池タイプの池なので、うじゃうじゃと蛇もいたことだろう。池伝説における人気キャラの大蛇は修行を積んで神化して竜キャラになる。
池は周辺の市街地化で農業用ため池としての役割を終え、引退後も埋め立て造成されることなく地域に大切にされてきたのも竜のおかげだろうか。
護岸はほぼ完全にコンクリート化されているが、インレット側と思われる一角にはアシ群落の浅瀬も見られる。国道側は垂直護岸に調整池で見られるものに近いオリフィスタイプの吐き出し口も。構造から単に保存されているだけの池というわけではなく、洪水調節機能をもった都市型調整池の役割も担っている可能性もある。ただ、増水時には竜のいる中の島はかなりの範囲が水没しそう。

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竜と鯉をかたどった鉄柵の透かし掘り。在家堤のおかげでひさびさに出動となったトレンクル号は15年以上の付き合い。全重量6.5kgのチタン超軽量車体に、DURAACE・18段変速をインストール。小さくも凶暴な野獣。あまりに危険なので歳をとった最近は、怖くてなかなか出撃させられない。


国道の歩道と池を隔てる柵もかなり凝っている。竜や鯉がかたどられており、使いまわしのきかない一点モノ。コスト度外視に愛が感じられる。
それでも生活排水が流れ込むのか水質はかなり厳しい。茶色く濁っている。生き物としては亀と鯉を確認。
水質改善の努力もなされており、地元保存会による草刈りやゴミ拾いのほか、培養した生分解微生物(EM)を週に二回、水路に放流しているとのこと。池への流れ込みの小さなコンクリート水路に黒く巨大なパイプが接続していたが、これがEMの放流口だろうか。
2012年の辰年に、もともと無彩色だった竜が緑と赤でペイントされたという。賛否はあるかもしれないが、太鼓橋や鳥居の赤と、松と竜の緑の組み合わせは目を引くものがある。


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国道側の垂直護岸。オリフィスタイプの余水吐が見える。


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中の島には鉄製の赤い太鼓橋が架けられているが、封鎖されていて渡ることはできなかった。赤い鳥居も見える。


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EMの放流口か。


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鯉と亀の魚影、および水質。



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水質浄化のために「EM活性液」なるものを「放流」しているとの看板が気になりました。看板によるとEMとは「共存共栄する微生物群」。自然界にいるものを人の手で養殖しているそうです。これを週二回、市が管理する水路に1トンずつ放流。すごい。これが微生物ではなく養殖したマスだったら、週二回1トンの放流で日本一魚影の濃い釣り場になりそうです。


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