それは山上の空母。テーブルランドの空中庭園に点綴する、魅惑の山池群
池が名に冠せられた山は、池好きにとってみれば特別のものがある。隕石クレーターのある長野県の御池山(1,905m)も心躍るが、東海と近畿を隔てる鈴鹿山脈にも、堂々、御池岳(1,247m)がある。しかも鈴鹿山系十座の最高峰。水は低きに流れる。池もまたしかりであるが、池の名が付く山が最高峰というのはどういうことであろうか。
この山を流れ下る水は御池川となり、刻まれた谷は御池谷。池尽くしに加えて、雨乞い信仰もあるとなれば、居ても立ってもいられない。
御池岳の山池群の景観と形態
広大な「日本庭園」は山火事がもたらした
御池岳の山頂は闊達な高原台地になっており、膝下ぐらいの草原のところどころに墓標のように岩群が立つカルスト地形だ。昔は笹原で見通しがきかなかったというが、火事でこのような姿になったというからケガの功名か。
ゆるやかに起伏する台地、遮るもののない青い空、そして岩、苔、池といった要素が並び、初夏や秋には永遠のような景観を呈することから、山上の「日本庭園」とも呼ばれる。
カルスト地形に発生するドリーネ池については拙著『日本全国 池さんぽ』や当ブログの南大東島(沖縄県)の項やにも詳しく書いたが、石灰岩の浸食と陥没によって生まれる天然の池。御池岳の山池群はこれにあたる。


冬は「青のドリーネ」を彩る山池
雪で覆われる冬場には、白銀一色の天上楽園に淡いグラデーションの影を落とすくぼみが「青のドリーネ」と名付けられ、冬山ハイカーの名所に。
ただ、見に行った人のほとんどは「青くないのに、なぜ青?」との感想をもつようだ。
この疑問については秋田八幡平の山池である鏡沼の事例が参考になりそうに思う。氷結した湖面が溶け始める限られた時期に「ドラゴンアイ」と呼ばれる現象が発生する。
ドリーネ池の水面がのぞくぐらいに雪と氷が溶けたとき、白銀の中にぽっかりと空を映した青が見えるか、あるいは、氷が透けるほど薄くなったときに下の水の色を移して青っぽく見えるのでは? ただ青のドリーネに冬場は水がたまるという前提ですが。
ドラゴンアイもそうだが、絶景となる瞬間は、凍結と積雪の溶融状態、空の色、太陽の角度などの条件がドンピシャでそろう針の穴のようなもので、もうひたすらその一瞬のタイミングを待って狙いつづけるか、よほどの幸運に恵まれていない限り出会うことは難しい。
「青」のドリーネを狙うなら、まず、雲のない晴天、雪が融け始める時期と時間帯だろうか。
まるで空母の甲板。山上テーブルランド
墓石地形とも呼ばれるカルスト空中庭園
空母の甲板から御池岳側には、標高千メートルを越える山頂とは思えないカルスト庭園が広がっていた。通称、日本庭園。
ところどころにドリーネ池が点綴。これぞ法悦。


御池岳の山池群
真ノ池
真の谷から御池岳山頂への分岐点に立地
カルストの庭をゆるやかに下りながら苔の堆積した不思議な草原を御池岳の方に進む。ゆるやかな真の谷から御池岳山頂への登りにさしかかる手前に真の池があった。



真の谷




南池
真の池の分岐から少し登ったところに南池。南池は2022年のGoogleマップにマークアップされていたので仮特定できたが、2023年のGoogleマップにはなぜか南池が消えていた。





サワグルミの池
南池のすぐ南にサワグルミの池があるということだが、やはり特定が難しい。しかし2023年のGoogleマップに「サワグルミの池」がマークアップされた。位置としてはこの池が該当する。



ウリハダカエデの池、平池、中池、丸池
候補1
ウリハダカエデの池はGoogleマップにマークアップされている。
サワグルミの池のすぐ南に平池、そのすぐ東に中池、その南に丸池。いずれも特定が難しい。


候補2



道池
分水点の峠から北西にのびる谷筋が開けたところに立地


上流(峠)側


下流(日本庭園)側
なだらかな谷が続く。



青のドリーネ(未特定)
東池の南東。テーブル南端。これらのうちのどれかか。





その他の池・・「山上平坦ニシテ三十余池アリ」
「テーブルランド」と呼ばれる山頂高原には、登山地図に出ている真の池と元池の二池のほかにも、ドリーネ池が多数あるという。
郷土資料では「山上平坦ニシテ三十余池アリ」とも。
他の池は今後、特定していきたい。
●おはな池・・元池の西方のエッジにある
●風池・・御池岳山頂の南
●東池・・幸助池の東
●北池・・Googleマップでマークアップ(2023/真ノ池の北東100m)
●幻池・・Googleマップでマークアップ(2023/道池の南東410m)
●ひょうたん池
御池岳の山池群へのアクセス
登山準備
千メートル級の低山とはいえ、登山準備は必要。まず地図を買った。
じつは山上のテーブルランドが思ったより広く(空母どころではない!)、道や踏み跡が幾筋もあって、ナビがあっても池が見つかるまで草原を迷走。
御池岳のみならず鈴鹿山脈には他に山池がいくつもあるが、『山と高原地図 御在所・霊仙・伊吹 (山と高原地図 45)』は全域をカバーしてくれているので、ぜひ持っておきたい一冊。
鞍掛峠の西登山口
ナビデータ
鞍掛峠の西登山口から御池岳の元池、真の池をめぐっての往復。距離は7.8km、獲得標高は660mほど。御池岳山頂には行っていない。(2019年)
鞍掛峠の登山口
今回、登山口として使った鞍掛峠の西登山口は標高650m。トンネル手前に数台分の駐車スペースがある。



鞍掛峠
鈴北岳へ
鈴養湖の眺望
途中、三重県側を見渡すと、鈴養湖がよく見えた。鈴養湖は中里貯水地が正式名称で、中里ダムが堰く人造湖。中里ダムは、なんと堤体の体積が日本一。見方によっては日本一、でっかいダムといえる。
鈴養湖の向こうの山は養老山脈。その向こうは岐阜県。






コグルミ谷登山口
駐車場は鞍掛峠Pを利用
登山口と駐車場が離れている。かつて登山口にあった駐車スペースは閉鎖。(2023年5月)




コグルミ谷の植物








カタクリ峠(天ヶ平)






御池岳頂上


マップ
池さんぽマップ
現地調査を含めて描きはじめて3年。ver.3.2でやっと御池岳の池群の全体像が見えてきた。



Googleマップ
Pマークは鞍掛峠の西登山口の駐車場