憧憬の秘湖、折りたたみ自転車で到達!
この池は長らく私にとって憧憬の秘湖であった。
山本山のような名もいい。思い出深い高知県室戸の幻の池「池山池」を思い出す。
ここもまた山中深く、孤高に身を潜めた天然湖で、アプローチ方法に関する正確な情報がほとんど得られない難しい池だった。
沼沢沼で調べても、福島県金山町にあるヒメマスと大蛇伝説で有名な沼沢湖の情報ばかり出てきてしまう。かの沼沢湖も、そもそもの名は沼沢沼なのだからいたしかたない。
地図や航空写真でも実態を把握できない。というのも湖周長1km超クラスの山上湖でありながら、流入河川も流出河川も見あたらない。なんとなく、だらっとした谷間に漠と広がる池で、ワンドがあるわけでもなく岬があるわけでもない。まったくもって、どっしりと漫然とした池なのだ。
地図上では沼沢川という川がある。池好きならば、この川を上流にたどれば沼沢沼にたどり着くだろうと想像できる。しかし川は途中で地図上から姿を消し、幾筋もの他の川が沼沢沼を指向している。どこか池好きの常識をあざ笑うかのような、生半可な知識で近づくなといった崇高さみたいなものを感じずにはいられない。
いきなり池に会おうなどとは僭越と思い、まずはアプローチルートだけでも確認しようと、2019年、ようやく初のコンタクトを試みた。
まずはクルマで沼沢沼にもっとも肉薄できそうな猪野沢伝いの林道。しかしハイエースでは限界があった。無理のない場所まで進み空撮を試みて、池の姿を捉えることができた。それでも代償は大きかった。延々とバックで戻ることになった。やっと転回できたスペースでほっと一服していると、老夫婦の四駆車がやって来た。何分か遅かったらと思うと冷や汗が出る。この夫妻に、いっしょにバックしてもらうことは難しかっただろう。
次に本命の沼沢川伝いの道へと向かった。起点は、沼沢という集落である。国道沿いにある集落で、舗装路が通じている範囲までは民家があった。家が途切れたところに、登山者への注意看板があり、その少し先に駐車スペース。その先は舗装が途切れフラットダート。クルマでも進めそうだったが、クルマを停めて折りたたみ自転車で進むことにした。
荷物は最低限にした。スマホと空撮機材。道の状況の視察と、適当にひらけたところで空撮を試みようという算段だったが、当初はフラットダートがつづいたこともあって、どんどん奥まで進んでしまった。
適当なところで空撮をして地形把握をしたら引き返すつもりだったが、だんだん気分がのってきてしまった。
勾配がきつくなり、道もガレガレで、自転車を押すシーンも増えてきた。引き返そう引き返そうと思いつつ、けっきょく汗でぐっしょりになりながら沼沢沼に到達してしまった。
空撮するには風が強すぎた。フライトはちょっと無理があったかもしれないが気分が高揚しすぎて判断が甘くなった。危うく機材を失なうところだった。
かつて沼の近くに分校をもつ沼平という集落があったという情報もあったが、裏付ける明確な痕跡は確認できなかった。沼沢という集落は国道沿いのふもとに現存するので、分校などはそちらにあったのではないかと思う。
貴重な鉱物でも産出しない限り、沼沢沼の池畔に集落を営むのはスペース的にも難しそうだ。インレット側に牧場などを営むことは可能だったかもしれないが。
ただ、現在もクルマの轍跡のある林道が沼をぐるりと取り巻いており、インレット側の斜面にもつづら折りのような道らしきものも見える。人との関わりと歴史においてもミステリアス。いつかカヤックを持ちこんで生息魚類の調査などじっくり取り組みたい池である。
上りは折りたたみ自転車で1時間半。下りは20分ほどかかった。
マークした場所は、アプローチ路(沼沢林道)入口の駐車スペース。