水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

石垣山一夜城の調整池(仮称)(神奈川県小田原)

調整池全景。駐車場黄色のラインから右側が池の範囲。2013年撮影

千回来ても池と気付かず・・。教えてくれたのは、妻だった。

トライアスロンに打ち込んでいた数年間、トレーニング場所として自転車かランニング、あるいは両方で登坂することを日課としていた。通算、千回までは数えた。
見晴らしのいい頂上のコスモス畑まで獲得標高200m、平均勾配10パーセント。ハードだが効率よく鍛錬できただけでなく、クルマもほとんどいなくて快適だった。犬の散歩の常連さんか宗教施設の送迎タクシー、農家の軽トラ、そんなのに1台2台会う程度。
ある日、コスモス畑が重機でつぶされ、みるみる整地されるや瀟洒なレストランと舗装駐車場ができあがった。狭い山道にクルマやオートバイがたえず通るようになり、トレーニングの場所としては足が遠のいていった。
あとから女優の川島直美さんの旦那さんがやっている店だと聞いた。その川島さんも病気で亡くなってしまった。
千回以上訪れた場所なのに、一度もここが調整池になっていることに気づかなかった。灯台もと暗しどころの話ではなく、節穴の目を恥じるばかりである。
コロナウイルスで河津桜祭りが中止になったことなどお構いなく、山頂で河津桜が咲き誇り、メジロが花をついばむ。看板に気づいたのは妻だった。
「ここ、池だよ、池!」


2023年2月撮影


 

調整池機能を有した駐車場

満車の駐車場を見渡すと、確かに海側にコンクリートの擁壁が設けられている。単なる転落防止柵ではなく、池の堤だったのだ。
あまりに見慣れすぎたこの場所を、あらためて池ウォッチするのは何とも不思議な気持ちだった。
「黄色線の内側が池」というところに、まず惹かれた。
駐車場全体が調整池として水没する仕様は全国で多く見てきたが、ラインで池の境界が示されているとは!

調整池全景。駐車場の黄色いラインに注目


 

貯留するだけでなく浸透と地下水の涵養も

小田原市の「雨水抑制設置基準」によると、5,000 m²超えるものについては「貯留施設」を設置することとなっており、この調整池もそのルールが適用された施設であろう。5千平方メートルというと、子どものサッカーピッチぐらい。W杯などの公式戦ピッチでいうと3分の2ぐらいの広さ。
この設置基準では用語の解説があり、「貯留施設」1種と「浸透施設」2種(雨水浸透枡、浸透トレンチ)の3つを総称して「雨水流出抑制施設」と定義している。
「雨水流出抑制施設」は「降雨時に、河川等への急激な雨水流出量を低減させるため、流域内に降った雨を一時的に貯留したり、または、地下に浸透させたりし、河川等への流出を抑制したり、地下水を涵養することにより、平常の河川等の流量を確保する役割を果たす」となっており、単に貯留するだけでなく浸透と地下水の涵養も明記されている。
3種にはそれぞれ個別の設置基準が表化されていた。
池ウォッチをつづけよう。

レストラン側


 

池設備をウォッチ

レストランがある方は小高くなっている。建物側の駐車場は黄色ラインの外側にあり、いってみれば池岸である。
となると、これは大雨になって駐車場が調整池として水没しても、レストラン側は使えるようにとの配慮? 駐車場兼用タイプは大雨のときは閉鎖されるものとばかりに思っていたので、ちょっと驚き。
コンクリート擁壁はレストラン側で途切れている。なるほど、黄色ラインより越えた水はここから流れ出すこともできる。
反対側までまわると擁壁が高くなり、オリフィス枡が現れた。調整池の心臓であるオリフィス。立派なオリフィスだ。
それにしても、なぜ、こんなにも長いこと気づかなかったのだろう。

オリフィス枡。下は小田原市の設置基準資料から



 

見どころ

石垣山一夜城

石垣山一夜城という豊臣秀吉の北条攻めの拠点として、城郭跡も散策することができる。


駐車場の河津桜

例年2月に開花。メジロが集まる。

川島直美さんの碑と散策路



www.grand-patissier.info


 

マップ

マークした場所はピンポイントでオリフィス枡。横は駐車場兼調整池。