水辺遍路

訪れた全国1万1,100の池やダムを独自の視点で紹介

大滝沼(青森県つがる)

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夕まずめのリリーパッド。あやしい水音の方に目を向ければ、太い波紋がヒシモを揺らす。中学生以来、数十年。ずっと待っていた気がする。あの寸胴の黒いモンスターがフロッグルアーに襲いかかる瞬間を

津軽半島の西側に、その名のとおり30km近くに渡って浜が続く七里長浜。
この浜の海跡湖である天然沼沢群とそれを改造した溜め池群が、浜沿いに南北に分布。アクセスの幹となる屏風山メロンロードから左右に分岐路が沼沢へと導く。
多くはダート路だが、隣接する大滝沼とベンセ沼については舗装路が池畔近くまで延伸されており、トイレ付きのちゃんとした駐車場が用意されているので、屏風山メロンロード沼沢群の池めぐりのファーストコンタクトにもうってつけといえる。
大滝沼および周辺の沼沢群は、ヘラブナの他、ブラックバスの魚影も濃い。水生植物が豊かな池の形態から、これらの池のどこかには、まだ巨艦のようなライギョが潜んでいる池もあるのではないかと思い、気配に耳を澄ます。
すると水面を割る波紋と音。派手な動きではないのが、かえって無気味だ。

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水面を揺らす波紋・・やつか?

もう何年もタックルに付けっぱなしのフロッグを打ち込んでみる。
フロッグというルアーは中学生のとき、腕が痺れるほどのライギョと対峙してから、心のお守りみたいな存在だった。放課後のあの夕まずめ、竿とフロッグ1個というシンプルな出で立ちでランディングネットなど持っていなかった。
それはフロッグ回収直前、数メートルの近い場所だったので油断していた。リリーパッドを割る破裂音。そこにあったフロッグは消え、波紋がうねりとなってスイレンの葉を揺らす。
当時流行したストレーンという黄色い針金のような極太の釣り糸がギリギリとリールのドラッグを引きしぼる。
足もとまで寄せていながら巨体を目の前にどうすることもできず、モタモタしているあいだに、決死のひと暴れでラインを切られてしまった。あのリベンジをいつかと思いながら三十年以上。

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テレスコのパックロッドにフロッグというカエル形のルアー、そして太鼓型のベイトリールは大昔の野池攻略と同じスタイルの装備。これはあくまで30年前の中学生のリベンジなのだ。


しかしじつのところ、中学生以来、フロッグでの釣りには成功していない。
1990年ごろから2010年ごろにかけてブラックバス、ブルーギルが爆発的に増える一方、ライギョの方は激減して、ほとんど姿を見なくなったことと、スピナーベイトというヘンテコなルアーでのブラックバス釣りの方が結果が出ていたので、フロッグはいつも宗教行事みたいな感じでリリーパッドに対して使うだけになっていた。
数十年前の真夏。ドブのような狭い水路で背ビレを並べて浮かんで休むライギョ群。水面から出た背ビレは、長い枝が何本も浮いているように見えたものだ。あの光景は、もはや現実の光景だったのか白昼夢だったのか判然としない。

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バふぉッ!
波紋の出たあたりを何度も狙っていくと、ついに水面が割れ、フロッグが消えた。
この瞬間、この瞬間を待っていたんだ。重い。ぐんぐん引き込まれる。
と・・。ふわっと荷重が抜けた。たった数秒。
バラした場所は避けて場を休めた方がいいというセオリーも忘れ、バラした場所にキャストする。バフッ。食ってきた。
しかし、またバラす。
再度、同じ場所にキャスト。また食ってくる。
あえてアワセをせず、向こうアワセでしっかりノってからロッドを立てる。いや〜、しかしロッドパワーが弱い。
でも、しっかりノった。ファイティング。魚影は見えない。
バスにしては重すぎるがヒシモが絡んで重いのかも。この執拗さはライギョではなく、バスか。じつはあとで調べてみたところ、フロッグゲームではバラした同じ場所を狙うのもセオリーだそう。フロッグの場合、同じ場所で何度でも食ってくることがあるそうだ。
まだ10mほどある。シャローなのでもう少し寄せれば正体が分かるはず・・、と思ったらスッポ抜けた。
えええーーー!
さすがに、もう同じ場所では食ってこなかった。
しばらく様子を見ていると、15mほど離れたところでボイル。すかさず打ち込む。
食った。バラした。
また食った。また、バラした。
アワセのタイミングをいろいろ変えてみる。完全にノッたと思って、うひひひ、と腕が痛くなるほどのファイトもあったのに、やっぱり抜けた。
なんで〜?? 沼に響き渡る絶叫。
日暮れ前のフィーディングタイムの30分ぐらいの間に9回も水面を割ってバイト。うち数回はファイトまで持ち込むも、すべてスッポ抜けバラし。
でも、一度だけ体側がちらっと見えた。緑色をしていた。バスらしい。
あの感触が忘れられず、また正体も確かめたくて翌朝、もう一度同じ場所に立った。
少し風もあってベタ凪の前日よりかえって良さそうだったのに、ボイルもなくバイトも皆無だった。
魚とは会えなかったが、あとはのんびり周辺の様子を見てまわった。
大滝沼には現地案内板に「大滝池」との表記も見られた。「池」は一般的には人の手が入り、人の役に立っているものを指すので、この大滝沼も溜め池として改造されているのかもしれない。
湿地状の海浜地帯を池と利用して開墾した先人の苦労が偲ばれる。

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トイレ付き駐車場と案内板
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マークした場所にトイレ付き駐車場。