水辺遍路

訪れた全国1万1,100の池やダムを独自の視点で紹介

稚児ヶ池(宮崎県西都)

【ちごがいけ / 御釣の池 / 鶴の池】

2022年に再訪すると、きれいな水辺公園として整備されていた。

長千代丸の人柱伝説と、千葉から贈られた大賀蓮

町中といっていい場所にあるのに、大賀蓮が水面を覆った水面は濃厚な何かの気配を感じる池だった。というのも「稚児池」という名は池の名前としてはいわくありというか、何もなければこういう名前はつけない。
と同時に往年の少年ライギョハンターにとって「稚児池」という池の名は、日本最高記録の121cmが出た聖地を呼び起こす。名が同じというだけでなく、この気配感。枯れた蓮のあいまに、三尺、四尺の棒のごとき背びれが浮かんでいやしまいかと幻影に誘われ、つい目をこらしつつフロッグをキャストするも、何も起こらず、これが現実。
それにしてもこの、池全体からむんむん迫る気配は何なのだろう。


右は2016年。同じ池と思えない大変貌。得たものと失なったものと。


 

稚児池の池伝説

室町時代の人柱伝説

室町時代、この池が稚児ヶ池ではなく鶴ヶ池と呼ばれていた時代のこと。大雨で池の堤が崩れたとき、池の底に埋められた黒大蛇と白大蛇の怨念のせいだという噂が流れ、人柱を立てるしかないだろうというふうに大人の話はまとまりかけた。もうたいがいに困り果てるとそうなるものなのである。大人は。しかし誰を、となると誰もが口を閉ざす。何かの拍子に自分んとこの娘なんかに降りかかると困るし。
そのとき通りかかった十四歳の少年が、神妙な顔で妙なことを言う。
「明日早うに、薄黄いろいの着た人が通ります。そん人が人柱によろしかろ」
大人たちはそれをお告げのように、なるほどとうなずきあい、「いやー、えがったえがった」と安心して家路についた。何とも他力本願というか無責任な話である。
翌朝、お告げどおりに黄色い着物を着た人がやって来る。捕まえてみると、昨日の少年だった。これは自作自演ではないか、騙されたかと怒った大人らは、よしこれを理由に人柱にしたると脅す? 脅すだけじゃなくて、そのままほんとに埋めちゃう? なんてずるいことを考えたりしていたが、少年の方はけろりとした顔で「では、」と言うや、みずからの腹を十文字にかっさばいてしまった。
いやはや自分から人柱を買って出るとは見上げた少年よ、と思う一方、十文字に切腹するのが前例になってしまうと、今後、人柱のなり手が減っちゃいそうだなあなどと、また勝手なことを考える大人たちの心配をよそに、この長千代丸という少年の人柱がたってのち、堤が切れることは二度となかったと。

神話の時代

稚児ヶ池のベースとなった池は「御釣の池(おつりのいけ)」といって神話時代にさかのぼる。天照大神の孫にあたるニニギノミコトが釣りをしていたことにちなむ。これが室町時代に「鶴の池」と呼ばれる溜め池へと改修されたと、新しく池畔に設置された案内板に記されていた。



 

池のディティール

水門・洪水吐(2022年)

堤体

左が2022年、右2枚は2016年。

案内板・駐車場


2016年


 

Googleマップ

マークした場所は駐車場。トイレあり。