水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

油ヶ淵(愛知県碧南)

【あぶらがふち】

「愛知県唯一の天然湖沼」はホント?

油ヶ淵を調べるとウィキペディアや愛知県オフィシャルサイトをはじめ、「愛知県唯一の天然湖沼」との枕ことばで説明されるのがほとんど。3千3百余もの池をもつ愛知県であるが、油ヶ淵以外のぜんぶが人工だったのかと唸らされた。言われてみれば、確かに天然湖沼が思いあたらない。
しかし油ヶ淵の歴史をひもといていくと、正直、天然湖沼といえるのか疑問・・というより江戸時代の治水工事がきっかけで生まれた湖沼であり、その後も二本の放水路開削や築堤という形で人の手が関与しつづけていることからすれば、むしろ人造湖なんじゃないかと思うようになった。
おもしろいことに「油ヶ淵」の名前は、この湖沼が生まれるずっと前に海だった場所に対して付けられたもの。私が知る限り、湖なり池なりが生まれる前から名前があったというのは他に例がない。
「愛知県唯一の天然湖沼」というのは疑問でも、「実体の前に名があった日本唯一の湖沼」という可能性は濃厚かもしれない。
なお環境庁(当時)の第2回自然環境保全基礎調査の資料では、油ヶ淵の成因は「不明」に区分されている。

油ヶ淵の形態と景観

最大水深5mの汽水湖。法的には二級河川

法律的な区分としては、二級河川の一部。最大水深は5mで潮汐の影響を受け上下する。形態からすれば湖というより沼だと思うが、海からの潮が入るため汽水湖に分類される。
衣浦湾へは高浜川と新川の3km弱の水路2本で接続している。これらの川は後述するが完全に人工の放水路である。


「渕」の字が使われているが「淵」とどっちが正? 要確認!

もともとは「北浦」という内湾

もともとは複雑な形状をした内湾のひとつだったが、江戸時代に放水路(矢作新川)を開削した影響で大量の土砂が河口部に堆積し陸封された。
意図しなかったものとはいえ人工河川の影響で生まれた湖沼が油ヶ淵のオリジナルの姿といえよう。
左は2024年、右は2013年。いずれも見合橋から下流側の油ヶ淵をのぞんだ景観。

江戸時代に築堤し完全に海と切り離される

1644年に現在の矢作川右岸の米津〜鷲塚間の2kmほどに根崎堤が新造され、完全な内水域が誕生。うーん、これでも天然湖沼なのかなあ。現在、地図ではほとんど堤の面影を実感できないので、もっと知るにはかなりマニアックな調査が必要そう。

二本の人工放水路が造られる

新田開発と排水のため江戸時代に新川、昭和時代に高浜川の二本の放水路が開削された。

塩害防止のための高浜川水門

高浜川の中ほどに塩害防止のため水門が設置されている。この水門は海水の逆流を自動的に防ぐ構造になっている。



見合橋

油ヶ淵の中央部を横断する道路橋。水道橋も併設されている。油ヶ淵は中央部がくびれているので橋は長くはない。


御嶽山の眺望

遠くに見えるのは木曽の御嶽山であろうか。

湖岸

まだほんの一部ではあるが、舗装されたサイクリング路も整備されつつある。


 

池名の由来と竜神伝説・・名前が先にありき?

なんと「油ヶ淵」というちょっと奇妙な池名には、油ヶ淵が誕生する以前の海だった時代の龍神伝説が深く関わっていた。
現在も油ヶ淵の北岸に「油渕町」という地名として残っている。つまりこの池は、名前が先にあって、後から池ができたという世にも奇妙な経緯を踏んだことになる。

むかしむかし、油ヶ淵がまだ内海であった頃、今の応仁寺(碧南市油渕町)の前に貧しく身寄りのない母子が住んでいました。岬の一軒家に住む子供は漁師であり評判の親孝行者で、母は非常に子煩悩で貧しいながら平和にくらしておりました。母は夜沖合で漁をする息子の身を気遣い、神仏に無事を祈っていました。
 その甲斐あってか、息子が漁に出た夜は、岬の端に明るい燈明が輝くようになりました。人々は淵の主である龍が娘に姿を変え、油を買い、あかりをともしたのであろうと噂するようになり、この岬を油が崎というようになり、そして幾年か後には淵の名を油ヶ淵と呼ぶようになったと伝えられています。(『安城市歴史博物館図録』「龍燈の湖」)


 

油ヶ淵沿岸の施設

油ヶ淵水辺公園

愛知県唯一の天然湖沼の親水公園

油ヶ淵の水辺環境の保全と親水機能を活用するべく、西三河地域で唯一の県営都市公園として2018年から順次オープン。

自然ふれあい生態園の池


田んぼビオトープ

2024年2月時点では整備中。


自然ふれあい生態園の駐車場

水生花園


ハス池



油ヶ淵清流ルネッサンスII~河川浄化対策〜


日本モーターボート選手会 常設訓練所

切間パーク再生プロジェクト

親水護岸

ボート係留


 

油ヶ淵での釣り

潮位変化に対応するのがポイント

地元の釣り人のあいで通称「アブラ」と呼ばれる油ヶ淵は、ブラックバス、コイ、フナ、ボラ等、魚種が豊富。
ブラックバス釣りではランガンで一日楽しめるフィールドとして釣り専門誌にも紹介されていた。クルマでまわることも可能だが、自転車だと湖周路を使って効率的にポイントを攻略できる。
毎年9月に碧南市観光協会が主催する釣り大会が開催され、大物部門では黒鯉、ボラ、フナの各部門で競われる。「その他大物賞」という部門もあるので、ブラックバスなどはそこに入るのかもしれない。
平成24年の例では、7800gの黒鯉が優勝している。
池の周囲は市街地で混雑はするものの道路状況もよく、コンビニ、食事何処など店舗も多い。
池の中央を横切る見合橋のたもとに比較的広い駐車スペースがあり、ランガンの拠点にもよい。インレット側の明治橋周辺はコンクリート護岸で足場がよい。
なお油ヶ淵は海とつながっているため、潮位変化がある。ボート禁止。

大物ポイントマップ

2013年の碧南市観光協会HPから。


 

マップ

ニッポン湖沼図鑑マップ

Googleマップ

マークした場所が駐車スペース。