水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

羅臼湖(北海道羅臼)

【らうすこ / 羅臼湿原】

知床半島で最大の湖沼

羅臼湖は湖周長3kmクラス(湖岸長は6km)で世界遺産・知床半島で最大の湖沼。湖面標高は740m。
知西別岳の山腹に広がる溶岩台地に立地し、流れ出て台地を下った水は知西別川となって太平洋に注ぐ。
かつては訪れる人もまれな奥座敷の秘湖だったが、高低差の少ない往復6kmのトレッキングルートが整備され、知床では知床五湖に次ぐ人気の湖沼になった。

羅臼岳と羅臼川とは通じていないのに羅臼湖?

知床半島最大の湖沼である羅臼湖であるが、けっしてケチをつけようという気はないが、それでも湖名には少々、疑問が残る。
羅臼湖は羅臼岳の山池ではなく、知床横断道路(国道)をはさんで羅臼岳と相対する知西別岳の広々とした山肩に立地している。
水源も知西別岳であり、流出河川も知西別川であることや、最大水深も2〜4m程度とされ一般的な「湖」スペックには足りぬことから、本来なら知西別沼という名が妥当かと思うが、「知西別湖」という沼がすでに下流側にあったりする。
羅臼岳の水が流れ込み、吐き出しは羅臼川となるような湖があれば正真正銘の羅臼湖であろうが、残念ながらそんな湖沼は見あたらない。
知西別岳から発し知西別川に注ぐ羅臼湖をアイヌ語で呼ぶなら、「チニウシペッ(知西別)」にちなんでチニウシペットー(枯れ木の多い川の沼)あたりが、ふさわしい名だろう。
やはりというか、羅臼湖という名は古くからのものではなく無名の沼だったと「日本百名山」に深田久弥も記している。


 

「百名山」の中の羅臼湖

深田久弥『日本百名山』で二番目に登場するのが羅臼岳である。
そこに羅臼の語源であるアイヌ語「ラ・ウシ」が解説されていて、狩った獣を屠ったあとの骨や内臓を捨てた場所、のような意味とのことで、深田が訪れたころの羅臼はバーや映画館もある知床一の都会だったそうだ。
そう聞けば、知床連山の最高峰にこの土地(村)の名を冠して羅臼岳とするのは自然なことだろう。
一方、羅臼湖については、こうも記されている。

南に向くと、知西別川上流の分水嶺のあたりに周囲五粁及ぶ無名湖(羅臼湖と呼ぶ人もある)があって、その囲りに大小七つの沼が点在している。この無名湖はクマザサや匐松のジャングルに妨げられて、今までそこまで達した人はごく僅かだそうである。
(深田久弥『日本百名山』)



 

羅臼湖の形態と景観

火山性の堰き止め湖

北1kmに位置する天頂山の紀元前1000年ごろの噴火活動による堰き止め湖

天頂山ごしに見た羅臼湖。この山に一列に並ぶ火口群は比較的新しい火山活動のもの。

標高700〜750mのテーブル状の溶岩台地

知西別岳の山体を流れてきた沢がテーブル状の台地でカーブして南流し、テーブル南側のへりで小丘に遮られるように一度北に流れ、ヘアピンカーブのように向きを変えて崖下に落ちている。
この堰き止め部がダムのようにしっかりしているため、テーブル台地上は全体的に湿原状になっており、大小の池が穿たれている。


羅臼湖側から羅臼岳方面の下り斜面。中央に五の沼、右には無名の「第六の沼」が見える

流れ込み(知西別川)

流入河川も知西別川であり、よって他の羅臼湿原湖沼群と異なり、羅臼湖だけは法律上も河川という区分になろうか。
流入口には土砂が堆積した出島状の湿原が形成されている。



 

吐き出し(知西別川)

流出河川も知西別川で台地から下は急斜面を駆け下りる。


湖中の植物群落

浮き島状の群落が複数確認できる。

岩石の島

展望デッキの正面に長辺3mほどの岩の島がある。不自然に感じるほど唐突に独立して鎮座している。

中の島


東岸

大きな岩が多い。


西岸

天覧山側斜面

溶岩が流れ出した痕跡が濃厚。


肉眼での眺望は展望デッキからのみ

登山路に接続した湖周路はなく、湖岸近くまでアプローチできるのは展望デッキのある場所だけ。知西別岳か羅臼岳に登れば俯瞰アングルも得られるかもしれない。




 

羅臼湖および周辺の動植物

モウセンゴケ、エゾコザクラソウ、チシマミクリ、チングルマなどの植物。
エゾアカガエル、エゾイトトンボ。




 

羅臼湖へのアクセス

羅臼湖トレイルとトイレ

羅臼湖への登山口から徒歩で往復4時間。標高差は80mほど。
長靴必要。途中、一ヶ所にテントタイプの仮設トイレブースがあるが、携帯トイレは持っておいた方が安心。起点に携帯トイレ回収ボックスもある。


羅臼湖ルール

羅臼湖まではテーブル下からテーブル上に上がる急登がある。途中、二の沼、三の沼を経て、テーブル上の四の沼へ。
自然保護のため、べちゃべちゃでも遊歩道のど真ん中をズッポリはまりながら歩くのが羅臼湖ルール。よって長靴が必須となる。


羅臼湖入口まで

マイカーは知床峠駐車場に

羅臼湖入口(登山口)に駐車場および駐車スペースはないので、知床峠駐車場から路線バスを使うか、およそ1km徒歩で国道を歩くしかない。
知床峠駐車場にはトイレあり。

知床峠駐車場。この駐車場以外には駐車できるスペースはほとんどない。


知床峠と羅臼岳

バスを使わず徒歩で登山口まで行く場合、長靴なのでけっこう距離を感じた。歩道もないし、こんな場所なのでクルマにはビックリされる。



バス停

時刻表は2021年時点のもの。

羅臼湖入口バス停と時刻表

羅臼湖入口(登山口)



二の沼の手前の沼

一の沼ではない。

目梨展望台

羅臼湖方面と別れる分岐があり、左に折れて登るとまもなく展望が開ける。羅臼湖方面は分岐を右へ。


二の沼

羅臼岳の迫力ある姿が。

三の沼

逆さ羅臼岳の撮影スポット。お立ち台あり。

bunbun.hatenablog.com

四の沼下の流れ出しの沢

沢の横を歩く。


四の沼下の湿原

木道を進む。

携帯トイレブース

湿原の奥、急登を上がったところにあった。


四の沼

一の沼から五の沼まであるが、羅臼湖と同じテーブルトップ台地上にあるのは四の沼と五の沼。

bunbun.hatenablog.com

五の沼

羅臼湖、四の沼と同じテーブル上に立地。羅臼湖に次いで広い。五の沼から羅臼湖までは平坦な木道を300mほど。



GPSデータ

往路はバスを使わず知床峠から徒歩で羅臼湖まで。
復路は目梨展望所も行ってバスで知床峠に帰還。



 

マップ

現地およびビジターセンターのマップ

登山口の案内マップと登山路

知床半島の秘湖マップ

ver.1.53 2023年10月

『知床半島の湖沼』という本のおかげで状況の把握が大幅に進み、完全網羅に近づきつつあると思う。鳥瞰図のアングルを変更。

ver.1.3 2021年8月

知床秘湖マップは余生をかけて仕上げていくことになりそうだ。とりあえず大まかな全貌はつかめた。


 

Googleマップ

マークした場所は登山口。