水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

さなぎ峠 池の平(静岡県沼津)

【いけのだいら】
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赤牛の池伝説をたどって

もともとは伊豆半島の反対側である伊東の一碧湖対島の大池に残された赤牛伝説が始まりだった。
悪さをして村人らに追放された赤牛がどこに逃げたのかを、いろいろな情報をたよりに追っているうちに、ここ西伊豆の山中に赤牛伝説のあるさなぎ山のさなぎ峠という場所に行き着いた。伝説では、峠近くのどこかに「池の平」という場所があるという。
池の平といえば、同じ静岡県の浜松市山中に、七年に一度現れる幻の池があり、信州と遠州灘をつなぐ壮大な大蛇伝説の舞台にもなっている。

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伊東の赤牛伝説のおさらい

懐かしのアニメ「まんが日本昔ばなし」で、赤牛伝説をおさらいしよう。


まんが日本昔ばなし 1300【対馬の赤牛】


 

赤牛を殺したデシどん

池の平の赤牛伝説はこうだ。
さなぎ峠越えをしていたデシどんという人物が、峠近くの池で赤牛が休んでいるのを目撃。伊東の赤牛伝説を知っていたのか、不吉の前兆である赤牛を殺したところ、牛は大蛇に姿を変えて息絶えた。と同時に池は消えてしまったという。
ということは、池の平は、すでに消失湖(ロストレイク)のようだ。


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イラストマップで下準備

手がかりがあまりに少ないので、現地での見落としがないようイラストマップを作ってみて驚いた。
あの摩訶不思議な大瀬神池と明神池と、なんとなく繋がりがありそうな・・。
明神池のある井田集落から古道がさなぎ峠に通じていた!! かつては交易路としても使われていたらしい。であればデシどん井田の人か、あるいは井田と交易していた人か。赤牛のことを知っていたとすれば、伊東方面ともかかわりがあった人かもしれない。
池妄想大暴発!
水源は富士山という伝説もある大瀬神池の水源が、あるいはこの池の平という可能性も?

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明神池での聞き込み

池の平と峠越えの道でつながる井田の明神池で、さっそく聞き込み。
明神池ほとりの畑で草刈りをしていた農家のおじさんが、昔、池の平に行ったことがあるとの証言を得た。
そもそも本当に「池の平」があるのかどうかさえ分からなかっただけに、これは大きい。
そして、おじさんの見た池の平は、伝説どおり水はなかったそうだ。

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戸田の道の駅での聞き込み

ふもとの戸田の港町にある道の駅に、土地の地歴の展示があると聞き、あるいはさらなる情報が得られるかと鼻息荒く赴いた。
ここで何と! 池の平をよく知っているという人物が!
道の駅には、でーんと立派な地形ジオラマまであり、テンションマックス。
ジオラマの前でいろいろ教わる。
「いけのたいら」ではなく、土地では「いけのだいら」と呼んでいること。その一角は元は村営地(現在は市有地)ではあるものの、周辺が私有地なので林業関係者以外は入れないこと。
さなぎ峠には井田からだけではなく、戸田からも古道があったこと。
デシどんは戸田の人物の可能性も・・と息巻いたが、残念ながら赤牛の伝説は聞いたことがないとのこと。
しかし、そのあとトンデモない証言が!!!
「もしかして、水がたまっているところを見たことありますか?」
「ありますよ」
「@#$@f@あf3:@!」

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いざ、池の平へ

すでに鼻血が出そうになっているのに、池の平まで案内してくれるというではないか。ほんとうに、ありがとうございます。
池の平はさなぎ峠から1.5kmほど北側に下った山中にあるという。私が航空写真で事前にアタリをつけていた場所は、資材置き場として整地されていただけだった。
池の平への入口はチェーンで封鎖されていた。チェーンを解錠してもらい、艦載小型偵察機モンキーで進む。

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途中、流れ出しと思われる枯れ沢も。増水時はかなりの水量がありそうだ。


 

ロストレイクのはずが・・

林道はかなり荒れていた。モンキーでも何度も転びそうになりながら、でも鼻腔はすでにそれを捉えていた。
水の匂いを。
近い! もしかしてもしかして・・。

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どーん!!

ふわあああ。

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池の状態と水位

訪れたとき、幸いにもわずかに池の水面が広がっていたが、草の生え方から見て、ふだんはやはり水はなさそう。
ただ周辺の木々がぽっかりこの空間を避けていることから、実際には思った以上の頻度で水がたまっていると思われる。
幻の池と呼びたいところだが、Googleマップ航空写真でも湛水している状態が写っていたし、実際のところは雨後出現池という感じか。
ただ、まわりの木々に残された泥水の痕跡から、満水時には現在より1〜1.5メートルほど水位が高くなっているようだから、そんなときに出会えたら、もっとすごい表情を見せてくれただろう。
そのぐらいの水位になると、いちばん低くなっている林道側へ池の水が越流することも考えられる。

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流出口

あるいは大瀬神池に至る谷筋へと流れ出していないかと期待したが、いちばん大きな流出口と思われる沢は東へと下り、古宇川と合流し西浦方面へ流下しているように見える。
ただ池から明瞭な流出口はなく、増水時に越流するか、地下水脈と思われた。

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流れ込み

流れ込みは池底の状態から北西側と思われるが、これも明瞭な流入河川があるわけではなかった。
下の写真では上側が流れ込み側にあたる。この方向の延長線上に神池のある大瀬崎がちらりと見えている。
神池の水源としては、ちょっと苦しい?

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赤いカエルは見つからねど・・

伝説の赤牛については宿題となったが、この池特有の赤いカエルなるものはぜひ見たいと、水面を望遠レンズで舐めまわすも、見つけたのはアメンボぐらい。
しかし季節になるとモリアオガエルの卵塊がまわりの木に見つかるという。
そして、池畔の数ヶ所にビンごみ。
しかしビンの形状がちょっと見たことがない。しかも見つかるビンはどれも同じもの。

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お供え?

ビンに記された文字は、「寶酒造」と読める。つまり現在の「宝酒造」?
池の一角に掘られたような穴がある。動物かと思ったが、神代杉の痕跡を探している人が掘ったものでは、という話だった。
赤いカエル、寶酒造、神代杉・・新たなる謎の沼へとハマっていくのであった。

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Google マップ