【むろさわしんぬま。大林沼】
「ラビリンス」な洪水吐を間近で堪能。
沼という名だが完全に人工の溜め池である。昔の名は大林沼。
オリジナルの大林沼は明治時代に築造された農業用ため池。その後、大正、昭和と発展的な改修が行われ、貯水量が当初の三倍にもなり、名前まで変わってしまった出世魚のような池なのである。
新しい池名にもなっている室沢地区では棚田の再生と保全(室沢棚田)活動も行われ、にほんの里100選にも選ばれた。豊かな里山を守る恵みの里池は、やはり表情もいい。池畔には遊歩道のほか観察小屋も設けられている。
目をひいたのはジグザクの洪水吐。ラビリンス堰という。ダムでは見たことがあったが、こんなに小さいラビリンスを間近で見ることができたので興味津々。
名前は大事だ。
これがラビリンス堰ではなく高効率放流堰とかだったら、ほほ〜、で終わったかもしれない。ギリシア神話に由来するラビリンス(迷宮)だからこそ、今後、ラビリン萌えやラビリン愛に突き動かされた新たなラビリンマニアが出てきそうな予感もする。
そんな文系の妄想をよそに、ラビリンス堰については魔法語のような数式を伴った検証論文や設置ガイドラインが作られている。いったいどれだけ勉強すれば、数式の意味が分かるようになるのか・・理系はえらい。
ラビリンス堰のすごいところは、洪水吐をコンパクトできることだ。溜め池のほとんどを占める土盛り堰体がもつ防災上の最大リスクを低コストで改修できる。
2018年は豪雨時の溜め池のリスクが脚光を浴びた年だったが、今後、全国に21万ある大小の溜め池を限られた予算の中でひとつずつ改修していく際に、救世主になる可能性を秘めている。
ラビリンス堰は海外ではわりと古くから使われていたようだが、日本で初めて施工されたのは秋田県羽後の松倉ダムという話。ひじょうにめずらしい鋼製の堰。
壮大なラビリン感なら苫田ダム(奥津湖・岡山県)が見ごたえある。エッジの処理など流体力学のもたらす心地よさを味わえるだろう。
マークした場所は駐車スペース。