水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

大池(沖縄県南大東)

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南大島カルスト池群の代表格は、ちょっと異端児。

南大東島のみならず沖縄県全体でも最大の天然湖。本土で大池という名に会うと、またこの名か、と少々、残念に思ってしまうものがあるのも正直なところだが、さすが絶海の孤島で会う「大池」の名は、その無個性な凡庸さがかえって無気味にさえ感じる。
確かに周囲20kmの小島の真ん中近くに鎮座する、湖周長5kmクラスの堂々たる天然湖であれば、大池の名以外に何があろうかとも納得させるだけの威がある。
南大東島の天然カルスト湖沼群は、円形や円を連ねたシンプルな形状が多くを占めるが、この大池だけは少々、様相が異なり、アメーバが触手を伸ばしたような複雑なワンドをいくつも抱え、さらにこの池だけには複数の島を浮かべていることも特異である。
じつはスリバチ状でドン深の他の池と異なり、大池と隣の帯池は水深が1〜2mと浅い。それは両池が島を浮かべていることからもうかがえる。
他のカルスト湖沼群は円形に陥没したドリーネ湖、ドリーネがさらなる陥没で連結し、円を連ねたような形状になったウバーレ湖の性質をもつが、大池、帯池は形状も異質である。
一方、やや正確さに欠ける言いまわしではあるが、淡水レンズの仕組みで外海と間接的に繋がっており、潮位に合わせて水面が一日に二度上下するのは、他のカルスト湖沼群と同じ。ただ他の池より塩分濃度が濃く、容貌や植生もひと味違うミステリアスさに惹かれる。

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大池全景。南から。


世界もびっくり。池に生えるマングローブ。

南大東島の大池には世界的にめずらしい陸封型のマングローブが池畔に自生しており、「大池のオヒルギ群落」の名義で国指定天然記念物にも指定されている。
北西岸にオヒルギ樹林を観察できる木道が設置されており、記念碑も立っている。
北岸側には展望台と案内板。いずれも2〜3台ほどの駐車スペースあり。

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木製の遊歩道で水ぎわまで出られる。
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遊歩道入口。
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鯉、メダカは減少傾向。確認できたのはティラピア2種とグッピー?

農家のおじさんによると昔は台風のあとなど、大池が増水してサトウキビ畑まで浸水したところで、一抱えもある大きな鯉が獲れたという。
ティラピアの姿はたくさん見たが小型が多く、それよりも一回りほど大きい黒い魚のことを訊ねると、鯉ではないかと言っていた。大池の鯉は黒かったそうだ。
オヒルギ群落では、メダカのような魚を確認。沖縄全体で見ると外来種のグッピーとカダヤシが殖えすぎて、メダカが減少しているという。

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まるでタコ? 不思議な生物。
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カダヤシ? グッピー? メダカ?


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メジロ(左) 何かの卵(右)



北側の接続水路に二基の水門。

巻き上げ装置とゲートを持った水門の存在が気になった。水門管理は近くのサトウキビ畑の農家の方が行っているということを現地で聞けた。
最近は水位が低く、地下水をポンプで汲み上げて使うことが多いという話もあったが、地下水の方が池の水より塩分濃度が高い傾向があるという研究者の報告もあるだけに、塩害対策はどうしているのかが気になった。
水門の先は奇妙なことに、すぐに水路が消えている。本土の常識からは想像もできないことだが、その先は地下洞に通じているのかもしれない。水門は塩分対策を目的としたものか、増水時に水を無駄なく地下洞に送り込み、地下水源とするためのものか。興味が尽きない。次回の訪問時はぜひ確認してみたい。
いずれにしても塩分濃度の高い大池の水を農業用水として使うためにはそれなりの工夫が必要のはず。他の各池とも通水していることもあわせれば、なおさらである。
水門とは対岸になる大池南側に接続する池の名が、「淡水池」「飲み池(漢字は不確定)」とつづくことも、考察の材料となろうか。

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大池南端部と接続する淡水池。手前に見える農道の橋が、大池との接続水路をまたぐ。その向こうは旧空港跡地。下の写真群はさらに南へとつながる水路と池群の様子。
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水門まわり。
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展望台と駐車スペース。


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南大東の池マップ(水辺遍路謹製)ver1.1

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これも水門を管理しているサトウキビ農家のおじさんの話ですが、昔(どのぐらい昔の話か分かりませんが)は池で泳いでいて死ぬ人がときどきいたそうです。
ドリーネ、あるいはドリーネが連結したカルスト池の場合、岸からドン深になっているばかりか、中には地下で海と繋がっていてダイビングスポットになっているような池もあり、見た目だけで判断して入水するのは確かに危険です。
一方、大池は水深1〜2mと沼なみの浅さですが、池底には10〜15mも腐食物堆積層があり、足をとられて底ナシ沼状態で抜け出せなくなったケースもあったのかもしれません。
南大東島の池群は水路でつながっているので、カヌーを使ったガイドツアーが安全でおすすめですが、風が強い日が多く、ツアー中止も多いのが悩みどころ。


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大池でもメダカのような魚を確認しましたが、グッピー、カダヤシとのあいだの生存競争で興味深い記事が朝日新聞に掲載されていました。