水辺遍路

訪れた全国1万1,100の池やダムを独自の視点で紹介

片くの池(山口県見島)

【かたくのいけ。大池】

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どう見ても国の天然記念物の池には見えない!!

日本一、地味な天然記念物??

見島は本土からおよそ50km離れた日本海に浮かぶ孤島。
この島の港はずれにある「片くの池」は上下二段の溜め池。左岸側は雑木林、右岸側には町工場が立ち周囲長300mほど。
それにしても変な名前である。「火宅の人」なら知っているが「かたくの池」とは?
離島の池ならではの旅情を差し引けば、名前以外は特にスペシャルな感じはない。そんな池が国の天然記念物に指定されていて驚いた。正直言うと上陸するまでこの池のことを知らなくて、てくてく歩いた町はずれの池の前で、天然記念物を伝えるさりげない立て看板を見て、えっ? みたいな感じ。こんなスゴ池が、しれっと隠れていたりするのも島池の魅力。

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国の天然記念物であることを示す案内板


 

見島のもうひとつの天然記念物

それにしても、じつに素っ気ない。オモテナシ感ゼロ。その潔さ、爽快。風が心地よい。
にしてもベンチひとつぐらいあってもよさそうに思うが、それもない。
見島にはもうひとつ、見島牛というウシが天然記念物になっている。見た目はちょっと小ぶりな黒毛和牛だが、高級肉牛で世界を唸らせる黒毛和牛のルーツともいえる貴重な存在。
島をあげて保存保護に努めていて、会えたらちょっとうれしくなる。これぞ天然記念物のありがたみ。

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港のかたわらにある見島ウシの像


 

こちらの天然記念物は・・カメ

一方、われらが片くの池はどうだろう。
天然記念物指定の理由がまた微妙な感じ。「見島のカメ生息地」というのが指定名であるが、それが別に希少種のカメというわけでもなく、日本の各地にいるクサガメとイシガメ。
しかも、まだ珍しい部類に入るイシガメの方はいつの間にかいなくなっちゃったとかで、ありきたりのクサガメだけが水面にぷかっと浮いていたり、木陰の石の上で昼寝していたりする。

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でもその地味さに意味がある

ではそろそろ天然記念物も返上では、という話になりそうなものだが、そうならないのは理由がある。
この変哲のなさ、に意味があるのだ。
希少なカメでなく、本土にはどこにでもいるカメが、この島にいることが。

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池の全景。集落の上手に築かれていることが分かる。


 

山口県による解説

以下、山口県のオフィシャルサイトから。太字は筆者施す。

 萩市見島の南東部には広い平地があり、多くのため池がつくられている。特に八丁八反と呼ばれる水田地帯には、それぞれの田に小さなため池があり、カメの生育には好適な場である。指定当時は、イシガメとクサガメが多数生息していたとされるが、1996年(平成8)の調査ではイシガメは確認できなかった。指定地は広さは約2万㎡の「片くの池」である。ときどき水際の石の上でカメの休んでいる姿が見られる。
 6月~7月、クサガメの雌は生息場所から山際に移動して産卵していると推測されため、道路・河川改修の影響が心配されており、一部、移動に配慮した工法もとられている。
 イシガメは日本の特産種で、県内各地の池沼に生息する。雑食性で、幼生はゼニガメといわれ飼育される。クサガメは日本のほか朝鮮半島、台湾、中国などに住み、後肢のつけ根から悪臭を出すのでこの名がある。
 日本海に浮かぶ見島は、約6万~1万年前、地球の全体が寒くなって海面が低下したときは本州と陸続きであった。その後暖かくなり、海面が上昇して島となったものである。
 これらのカメそのものは本州の各地に生息しており、珍しい動物ではないが、見島が本州と陸続きであった時代から生息していた動物として特に指定されている


 

片くの池の構造

下の池の堰体

堰体部の上は道路になっている。堰体下部はコンクリートタイルの擁壁。下の写真でトラックが停まっているあたりが堰体。その手前に天然記念物の案内板が見え、フェンスの向こうが池。

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護岸

右岸側は道路があるためコンクリート護岸に改修されているが、雑木林の左岸側はよく見ると石積み護岸が確認できる。

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取水設備と洪水吐

階段状の風呂栓方式の斜樋、およびスライドゲートの底樋門が確認できた。黒いホースはサイフォンであろうか。洪水吐はコンクリート製。

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上段の池

上段と下段の池の間には道路が通っている。上の池の堰体はコンクリート製。

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見島へのアクセスと島池さんぽ

萩港(山口県萩市)から渡船でおよそ70分。1日2〜3往復。
運賃は往復で4千円弱。見島の島池めぐりは急げば徒歩でも一日あれば足りるがレンタサイクルが便利。
港周辺の集落に雑貨を扱う商店や宿のほか、コンビニが一軒ある。
 

渡船ゆりや号

新造船で快適そのもの。貨客のみでクルマの航送はできない。

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ゆりあ号の中にあった案内板

見島のユリヤ貝や、見島観光についての案内板と、ユリヤ貝の実物展示が船内後部にあった。

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見島の港

二ヶ所あり、渡船はどちらから乗っても料金は同じ。

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見島の集落

集落の中はこんな感じの道が多く、島旅情たっぷり。

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火宅の人

家庭を捨て愛人に生きた作家の自伝的小説。緒方拳主演で映画化も。

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