モダニズム土木のダムが、こんな所に
富山の黒部川の発電用ダムについて調べていたときに、モダニズム建築の山口文象(やまぐちぶんぞう・1902〜1978)というダムデザインの凄腕の存在を知った。
彼がデザインしたダムが、何と観光地としても人気の箱根湯本にあると知り、少し距離はあるが運動不足解消も兼ねて家から歩いて行ってみることにした。
ダムという名は付いているがハイダムスペックは満たしていない。早川取水堰との呼び名もあり、「荻窪用水と関連施設」として土木遺産に認定されている味わいのある取水堰堤だった。
2022年12月に再訪したところ、ゲート工事のためにゴムゲートが撤去されており、ゲートレス状態の貴重な姿(?)が出現。
モダニズムなディティール
監査廊の一端にある、この張り出し屋根のデザイン。これを見たとき、タダ者ではないと思った。これぞモダニズム!
ゴムを空気で膨らませる珍しいダムゲート
管理は東京電力なので発電用であるが、最近、地元の用水路として興味を持っていた荻窪用水の取水口も兼ねているようである。つまりこの取水口のオリジナルは江戸時代に造られていたということになる。
特筆すべきは、このダムのゲート構造だろう。両翼に鋼製ゲートが見られたが、これは現場の操作盤のプレートを読むと排砂ゲートのようである。
メインゲートは一見、ゲートレスのようだが、まかさの空気膨張式ゴムゲート(ゴム堰、ラバーゲートとも呼ぶ)だった!! 自宅から歩いて行けるところに、よもやレアなゴム堰があったとは・・。
でも、空気で膨らますゴム堰はレア度は高いものの、見た目は正直、もっさりしていてモダニズムの対極にありそうな。山口文象さんが見たら嘆くだろうか。
もとは激レアのローリングゲートだった
メインゲートの改修痕跡をよく見てみると、通常のスライドタイプではなく、かなり厚みのあるゲートが採用されていたことが窺える。
じつは昭和11年の完成当初は、ここに今や激レアゲートとして名高いローリングゲートが据えられていたのだ。
ゲートの上を越流してもスムーズに水を流せるので、急流の早川や黒部川に設置するには利点もあったのだろう。一方、構造が複雑でメンテナンスも手間がかかる欠点もあり次第に姿を消す。改修などの際に、コンクリート部分をそのまま生かせる、斜め引き揚げ式のシンプルなローラーゲートに置き換えられるケースも多かったようだ。
堰堤まわり
堰体横に取水口がある。用水路は二系統に分かれている。山崎発電所に送られるものと、荻窪用水。
貯水目的ではなく分水するための堰なので貯水池と呼べるほどの池は形成されていない。
アクセスと駐車場
アクセスは国道138号線沿い。箱根湯本駅を過ぎて土木遺産の函嶺洞門(かんれいどうもん)のところに観光駐車場(無料)があり、トイレと案内板がある。
徒歩であれば箱根湯本駅から10分ほど。日帰り温泉も近い。
案内板には土木遺産の紹介と、早川取水ダムの説明も。
マークした場所は駐車場