おおほらだちょすいち。
西表島の水田を潤す「溜め池」顔の貯水池
八重山諸島においては谷川を堰いた「いかにも溜め池」という顔をした谷池が、ほんとうにない。かろうじて石垣島に数基。しかし、どれもダムスペックの大型のもので、いわゆる「ため池」らしい風景には出会えていなかった。
だから地図で、いや地図にこの池は出ていない。航空写真でこの池を見つけたとき、心が踊った。
深い山を開析して下る谷。それが山裾で耕地へと広がろうとする一点を堰き止める直線的な堤。これぞやっと見つけた溜め池。
現地ではさらに胸がはずんだ。谷戸地形の中央に、直線的に改修された大原川が流れ、左岸側には水田、右岸側にはサトウキビ畑が広がっている。上流に向けて扇型にすぼんだ先に見えるのは、池の堤のようだ。
この溜め池は西表島の水がめ山地から流れ出す大原川の本流を堰いていることもあって、増水時には濁流となって水が流下する痕跡が残っていた。それだけに洪水吐の立派なこと。しかもこの洪水吐、魚道付き!! さすが原生の島、西表。
池の両岸はやや切り立ち、特に左岸の堰体横は垂直の懸崖で岩が露頭している。しかしその頂部は整地され農地が広がる。これら高台の農地にも水を供給できるよう、溜め池の左岸側にはポンプを備えた揚水機場があり、崖線上には配水池も設けられている。
じっくりと見てみたい溜め池だったが、沖縄のダムや溜め池の多くがそうであるようにフェンスやゲートで閉ざされ、右岸、左岸、堰体天端のいずれにも立ち入ることはできなかった。
地形的に堰体はハイダムスペックにまで嵩上げできる余地は残っていそうに見える。ただそこまでの水は必要ないのか、堰体が低めだったおかげで農業用ダムではなく溜め池にとどまってくれた。
案内板には「貯水池」としか記されていない。地区名の「大保良田」を付して池名としたが、そう呼ぶ事例も散見したので間違いではないだろう。
ただ、いい池だけに大保良田貯水池ではそっけなくて残念。池端の土地改良記念碑には「ウバル田」の文字が刻まれている。「大保良」は「ウバル」の当て字のようだ。ならば郷土色豊かに「ウバル池」と呼んであげたい気もする。
マークした場所は貯水池堰体左岸側。航空写真に切り替えると池が確認できる。