水辺遍路

実踏・日本の湖沼 6,850湖

田代ダム(静岡県静岡)

たしろだむ。田代川第二発電所調整池。田代調整池第二ダム。

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田代ダムの構造は独特。天然の滝に見えるがダムの洪水吐で、堰体は別の場所にある。

あふれる達成感に包まれる秘境ダム。

畑薙湖のマイカー規制ゲートから大井川を未舗装路でさかのぼること27km、南アルプスの胎内奥深くにある水力発電用のダム。これで所在地が静岡市葵区という政令指定都市内なのだから妙な気がする。
興味深いのは下流側の赤石ダム、畑薙ダム(第一・第二)が中部電力が管理運営しているのに対し、最上流部の田代ダムだけは東京電力管轄なのである。
一河川一社の例外という激レア感はダムマニアにはこたえられないものがありそうである。なんとこのダム、県境をなす山嶺をまたいだ山梨県側に地下トンネルで導水している。駿河の大井川の水をいちばん上で抜き取って甲州側に流す荒技。流域住民と水利権争いの歴史もあるが、田代ダムのダムカードに記されているだろうか。

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堰体のクレストゲートはなく、コンジットゲートと流路のみ。いわゆる洪水吐はダム本体とは別の本流側に設けられている。

アプローチ路に目をむけると、界隈には、悪沢岳、赤石岳、聖岳、光岳と、日本百名山の四峰が集い、登山者垂涎の聖地。とはいっても、百名山の作者、深田久弥が書いているようにアプローチが容易ではない難敵ばかり。訪れる登山者は熟練で、ある種の覚悟を秘めている。
ダム名こそ明示されていないものの、以下の記述は田代ダムを指しているものと思われる。

最奥の部落田代や小河内のあたりまで、ダムに堰かれた川は人造湖になって、今や観光地に化しつつあり、発電工事はなおその上流にまで及んでいる。(深田久弥『日本百名山』<No.85聖岳>)

最新スペックの新東名高速が開通した現在でも、田代ダムまでは最寄りインターからクルマで山道を50km、その先、未舗装路を徒歩か自転車で27kmもあるから、深田がいうほど観光地という感じはしないが、瀟洒なロッジがダム横に立ち、ロッジ利用者はバスで送迎してくれることを考えれば、もはや秘境という言葉はあてはまらないのかもしれない。
さらにいえば田代ダムのさらに奥地でリニア新幹線の建設が始まるそうである。さすがの深田さんも想像もおよばなかっただろう。

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本流側の洪水吐はダム湖の左側にある。右写真は二軒小屋ロッジと田代ダム。

一方、27kmもの長大なマイカー規制区間のおかげで、釣り人やダム愛好家、トレイルサイクリストといった登山の門外漢にとっては、今なお田代ダムは秘境中の秘境である。なんせ歩いて行くか、自転車で行くか、お金をかけて登山者といっしょに山荘の送迎バスを使うしかない。
田代ダムは二軒小屋ロッジのすぐ裏手にあり、歩いて行ける。
ダムから下流側の大井川本流は7kmにわたって管理釣り場となっている。
またダムカードも発行されている。カードの配布場所は畑薙第二ダム貯水池横の温泉「しらかば荘」。

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田代ダムのすぐ隣にある二軒小屋ロッジ。
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現地にあったダムカード配布に冠する案内。「田代川第二発電所調整池」ともある。


 

自転車での木賊堰堤〜田代ダムの行程(動画付き)

田代ダムツアーについては2015年に畑薙湖まで行ったあとに計画を練りはじめ、2017年は決行の年と決めて登山と渓流釣りをセットに二軒小屋ロッジ宿泊を軸に検討し、小屋に電話で予約状況や天候などを打ち合わせるところまでやったものの、都合と天候が折り合わず翌年繰り越しとなった。
2018年はたびたびの大型台風、西日本豪雨などで、夏場はほとんど小屋営業ができないほど林道が被害を受けた。
山の早い夏が終わるころ小屋は再開されたが悪天候の多い秋だったため、一発晴れ間を狙ってのチャリ電撃アタックも視野に入れ、機材の準備を進めた。
大型台風の列島上陸が目前にせまるなか、思いがけず、南アルプスの雲と湿気を根こそぎ台風が吸い寄せ、束の間の快晴の予報。この日に賭けることにした。
夜のあいだに50kmの山道マイカー区間を終わらせ、日の出とともに畑薙湖ゲートからチャリアタックを開始する計画だったが、山中、小雨が降ったり止んだり。雲行きはあまり芳しくない。
畑薙湖の沼平駐車場で準備をしながら天候を睨む。晴れ間が見えはじめた午前6時30分にアタック開始。畑薙湖から赤石ダムを経て木賊堰堤までの行程は、赤石ダムと木賊堰堤のページに、マイカー駐車場などの情報は畑薙湖のページに記したのでここでは木賊堰堤から先に進もう。

bunbun.hatenablog.com
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木賊堰堤から先は道路の崩落箇所も多く修復されたばかりのところは広い工事現場のようでもある。ときどき道を横切るように水が流れている。
最初こそ水たまりを除けて走っていたが、体も自転車もどろどろで、もはや気にならなくなった。
かなり足が重くなってきて尻も痛い。坂が少しきつくなったのか、自分の体がまいっているのか。
22km地点で二度目の休憩。断崖を道路が通っているので、なかなか休めるところがなく、早めの休憩。パンと水を摂取。2リットルの水は半分以上なくなったので、それだけでもだいぶ荷が軽くなった。
川の方を見ると断崖で目がくらむ。ここが管理釣り場というからすごい。どうやって降りるのだろう。

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22km地点。ゴールの田代ダムまであと5km。


休憩をとって、いざラストスパート! というわけにはいかない。上ったり下ったりの繰り返しの行程なので、復路もけっこうな上り坂が待っている。ひたすら温存を意識するが、ここからの1km、1kmの長いこと。
二軒小屋が近づいてくると、心なしか森が開けて明るくなってきた。気持ちのせい?
道は二股になる。右に行くと150mほどで二軒小屋。左の川沿いの道は明るい舗装路になり、ここからの250mほどはウィニングランの心持ちになる。
渓流釣り師の二人が折りたたみ自転車を組みたてていた。下流側の管理釣り場ではなく、田代ダムのさらに上流、大井川の源流へと進み、ヤマトイワナを狙うのだろう。
滝の音が近くなり、とても低い虹を従えて田代ダムの洪水吐が現れた。

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見た目は天然の滝そのものだが、上から見るとゲートが確認できる。


ダム湖は本流から迂回するようにU字形を描き、それは地図でみると三日月湖のように見える。滝から先に進む道があるが、ここにもゲート。ただ、自転車と歩行者は横のクルマ止めから先に進めるようになっている。
釣り師たちもここを通っていった。
ダムサイトまでは舗装路で200mほど上ると管理所が現れる。
さらに道の奥へと消えていく釣り師たちの背中を見送った。
じつはこの先、直線距離で10kmも先に池の沢小屋という山小屋がある。そこから沢伝い1.5kmの山腹に池ノ沢池という池があることが分かっている。登山路があるのか分からない。池ノ沢池に行くことがあれば、この田代ダムはゴールではなくスタートにすぎない。
そして千枚岳、赤石岳の方に登っていけば駒鳥池という天然湖も。徒歩で7時間以上はかかるという話だ。


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田代ダムのダムサイトへと上るアプローチ路前のゲート。右端の写真は起点からゲートまでの走行データ。

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空からみると洪水吐、堰体と二軒小屋の位置関係がよく分かる。



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畑薙湖の沼平駐車場〜田代ダム往復のトータルのデータ。ダムサイトと二軒小屋に立ち寄ったため、若干、距離が長くなっており、56.4km。累積登坂高度は881m。帰路だけで200mは上っているので、チャリアタックの際には復路の体力も残しておきたい。


マークした場所は滝壺前。ダムサイトへのゲートもここにある。