とうみがいけ。
このゆかしい名をもつ周囲長1kmクラスの池は、日本海から1.4kmほどの平地と山との境目にあり、四方をこんもり山林に囲まれている。海とは反対側に小さな開口部があり、大きな工場が隣接している。水面標高はわずか海抜14m。
溜め池ということなので、おそらくはこの部分が堰体や取水設備のあった場所だろう。現在は展望台が設置されている。
明確な流入河川はないが、池の底に湧水があるともいわれており、全体的に浅く全国で数を減らしている貴重な水生植物も種類が多い。春のミツガシワ、夏のジュンサイのほか、コウホネ、タヌキモ、ショウブなど。
これだけの環境をもつ池だけに魚種も豊富で、タナゴや北陸地方で「グズ」と呼ばれるカジカのほか、フナ、コイ、ナマズ、草魚、雷魚、ブラックバスが報告されている。雷魚や草魚は、朝夕にはメータークラスのモンスターが水草の間からヒレを揺らす様子が見られたといい、ルアーフィッシングの釣り人で活況を呈した時代もあった。
立地的には市街地辺縁の工場地帯になるが、池の様相は自然護岸が多く、浮き島状のアシ群落も点在し、多様な生物の揺りかごになっていそうだ。かつては40種以上ものトンボの楽園としての希少性が地元の環境意識を高め、ブラックバスの駆除活動もたびたび行われた。人口産卵床、釣り、刺網による捕獲が試みられた。
地元の高校生らの環境学習のため、捕らえられたブラックバスの解剖が行われ、165尾分の胃袋からは小魚やアメリカザリガニのほか、ヤゴ、イトトンボ、アメンボも出てきた。
アクセス方法もちょっと変わっている。工場をぐるりとまわって行くと小さな駐車場がある。ここから池の眺望がないまま遊歩道を歩き開口部に至って、やっと池が姿を現した。そんな現れ方もいい。名もいいが期待を裏切らない、心に残る水辺だった。
水生植物の生え方も雰囲気がある。大工場が真横になければ山の中の池に思えるだろう。
マークした場所は駐車場。