都市を守る調節池の意外な一面
一級河川とはいえ東川は、住宅地の中を流れるコンクリート溝渠(こうきょ)で、昔だったらドブ川と呼んでいたような小さな流れだ。水質は改善努力がなされており、コンクリート護岸内には土壌も入れられ、水生植物やオイカワらしき豊かな魚影も確認できた。
こんな小さな川とはいえ、保水能力を失なった都市にあっては、住宅地や道路の面と川の河床高がほぼ同じということもあって、あっという間に住宅地を冠水させてしまう。
そこで洪水時に水を逃がす調節池の出番というわけだが、必ずしも広大なスペースが確保できるわけではない住宅地にあっては、ここ上新井調節池のように10m以上も深く掘り込んだ空堀のような池が造られる。
池は上下二段になっており、左岸側に沿って東川が流れる。東川と池の間は歩行者と自転車だけが通行できる細い舗装道になっている。危険ですので入らないでください、という看板とともに、池の水位が上がるとこの遊歩道も水没する危険があるという信じられないような注意書きも。この深い池までもが満水になるような危機的な状況では、わざと一段低くした道路部分を越流させて水を逃がす設計らしい。
東川は池の上側で二股に分かれ一方が調節池の流入口に接続する。一定水位以上にならないと水は入らないよう自然越流の堰が設けられていた。よって平時の池にはほとんど水がない。
上新井調節池が本領発揮したのは、2016年の台風9号。本当に歩道部分まで水があふれ、東川に越流したようだ。なみなみと水をたたえた池の姿というのものは本来ならば美しいものだが、上新井調節池が満水になっている姿は不穏さばかりが渦巻いていた。
また、東川の水位よりはるかに深く掘り込まれた池なので、ひとたび水が溜まると自然に水が流れ出していくことはない。洪水後には電力とポンプを使って計画的に排水しなければならない点も都市型調節池の宿命といえよう。