水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

上椎葉ダム(宮崎県椎葉)

【かみしいばだむ / 日向椎葉湖】
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平家落人伝説と民俗学発祥の地と吉川英治

「椎葉」という名の情感、山の奥深く平家落人の隠れ里であり、「鶴富姫伝説」をはじめ民俗学の発祥の地ともされ、しかもダム湖百選ということで、ずっと行ってみたかったダム湖。
しかし初めて訪れた2016年の熊本県側からのアプローチでは、とんでもない峻嶮な狭隘路を延々二時間も走らなければならなかった。その間、すれ違ったクルマは一台だけ。もう人を見ただけでどこかほっとするほどの山深さ。
2022年春の再訪では、熊本県側からのアプローチが時間通行止めで日中はお昼の1時間しか走行できる時間帯がなく、あえなく撤退。後日、時間を合わせて通行したところ、道路はだいぶ改良されてきているのを感じた。また東側からのアプローチ路はトンネル化、高規格化がかなり進み、離合困難な部分はだいぶ少なくなっていた。
便利な一方で、遠くないうちに上椎葉ダムのあの恐るべき秘境感は味わえなくなるかもしれない。

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ダム湖のインレットの左岸側に「民俗学発祥の地」という看板が。
明治41年、日本民俗学の祖といわれる柳田国男がここを取材して著したのが「後狩詞記」。国内に民俗学という学問はなく、柳田も学者ではなくお役人。この著書によって初めて学問として体系立てたということで、ここが民俗学発祥の地ということらしい。
しかも「日向椎葉湖」というダム湖名を名付けたのは、ここを平家物語執筆の取材で訪れたという吉川英治。

和(わ)さま平家の 公達(きんだち)流れおどま追討の 那須の末よ 那須の大八 鶴富置いて 椎葉たつときゃ 目に涙
(椎葉村の「稗搗(ひえつ)き節」)

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日本初の100m超級アーチダム。

ここの魅力は椎葉村の風土だけではない。今から半世紀以上も前、1955年に堤高100mを越える初めてのアーチダムとして竣工し、日本の土木技術史に新しい一ページを刻んだダムでもある。
堰体の特徴としては、最初の巨大アーチダムということで安全性を優先した肉厚な垂直円筒アーチで、一ツ瀬ダムとならびスキージャンプ式余水吐をもっている。
これは二つのスキージャンプ台に越流した水を流し、空中でぶつけることで水の勢いを殺すという日本独自のアイデア。空中高くの激しい奔流のぶつかり合いは、さぞかしすごい光景だろう。なかなか見ることはできないので一ツ瀬ダムのページで妄想絵を。

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サクラマスの釣り場としても人気

右岸側は国道が走っており、深く入り込んだワンドに駐車できるスペースが点在。それにしてもワンドごとにルアーマンの姿が。山奥なのにすごい人気。インレット側では、へらぶなも。釣りには遊漁券が必要。

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