水辺遍路

訪れた全国1万1,100の池やダムを独自の視点で紹介

赤城山「血の池」(群馬県前橋)


池の水は男嫌いの女の血の色。でも実は・・

昔、男に言い寄られるのを苦にする美しい女がいた。こう言えば男も寄りつかないだろうと、原っぱを掘って水が湧き出したら結婚してもよいという難題を出したら、根性で井戸を掘り当てた男が出てきた。
世界的に見られる「難題婚(課題婚)」という民話パターンである。
この池の伝説が変わっているのは、その後の話。女はショックのあまり? あるいは自ら選んだのか急死する。女の血が流れ込み、池は赤く染まった・・。暗喩のような不思議な話が血の池の名の由来。
しかもふだんは水がなく、梅雨から8月にかけて一時期しか池の姿を見せない雨後出現湖でもある。

 

水が赤く染まる池伝説は事実だった?

ヤマヒゲナガケンミジンコ

この池が赤く染まるというのは、ただの伝説ではなく本当の話らしい。
ヤマヒゲナガケンミジンコという高山性のミジンコの大発生が原因。このミジンコは池の水がなくなるなど環境が悪化すると耐久卵や幼生の形態で乾燥にも凍結にも負けることなく何年も水が戻ってくるのを待ち、一定の条件が揃うと大発生し湖面を赤く染めるようだ。


メスを捕まえるための巨大な鍵を持つオス

血の池に棲むヤマヒゲナガケンミジンコは、オスだけ左右非対称の触角をもつ。仰向けに泳ぐので左右反対になっているが、右側の触角だけ中央に節のようなものをもち太く長い。これはメスを捕まえるために発達した。男嫌いで死んだ娘の血。その色の正体が、メスを捕まえる巨大な鍵を体に持ったミジンコとは、なんとも因果な話である。

ミジンコとヘモグロビン

種類は違うが標高2,000メートル以上の高山帯に生息するタナカミジンコという種は8〜9月に大発生する。
ミジンコは水中酸素が低下するとヘモグロビンを増やして赤くなる生態がある。
北アルプスの高山帯の水たまり状の池には酸素不足で赤いミジンコがいることが1930年ごろから知られている。
血の池のミジンコが赤さの正体が血液成分のヘモグロビンだとしたら、「血が流れ込んだ」という池伝説はあながちはずれていない?


高山湖とミジンコ

高山湖では強い紫外線から身を守るために外殻にメラニン色素を増やすミジンコもいるようだ。

 

池の形態と成因

立地

小沼の西側の標高1,400mに位置。ふだんは水はなく、上空から見ると小沼の横に森に囲まれぽっかりと原っぱが広がっているように見える。地蔵岳からも俯瞰できるようだ。


流れ込み

一ヶ所、流れ込みの痕跡があったが、ふだんは涸れ沢のようだ。

シーズナルレイクと池の出現時期

赤城山の中腹、標高1,450m付近にある火口跡のくぼ地に、初夏から秋にかけて出現する雨後出現湖の一種。雨量の多い時期にのみ現れることからシーズナル・レイクともいう。
水が枯れている期間が長く、一年のほとんどは草原の状態。
梅雨から秋にかけて数日から数週間出現する。2018年の立正大学の調査では10月1日から10月19日まで池が出現したとある。
湛水期の水深は1mほど。
魚類は生息せず、プランクトン主体。

湧水口はないか?

草の円形ハゲ

草原の一角に草が生えていない場所が。湧水口の可能性はないかチェック。

岩の集まり

水の湧出口の可能性もあるかもとチェック。なんだろう。あるいは単に人間が焚き火をした跡?

タフリングは発達せず

小沼のようなタフリングは見られない。小規模な噴火口だったようだ。



 

空から見た、血の池

エメラルドの水をたたえているのは、血の池と同じく爆裂火口湖の小沼。


 

池へのアプローチ

小沼の駐車スペースをスタート

小沼へのアプローチ入口があるので、ここから入る。

入ってすぐに分岐

この分岐を直進すると小沼。「血の池」と道標が明示してくれている右へ進む。

朝香山との分岐

血の池は右へ。

「荒山2」の分岐

「荒山2」の分岐に「血の池」を示す道標あり。右に進むとすぐに視界が開け血の池に到着。

 

下からのコース

上の駐車場がいっぱいのときは下から血の池にアクセスするルートもある。こちらからだと、血の池まで1km。




 

伝説の池と赤い池


bunbun.hatenablog.com



 

マップ

池さんぽマップ

2023年5月、ver2.1→ver.2.2へ更新。山の形状などを見直した。




Googleマップ

マークした場所は小沼駐車場。血の池は南西300m地点にある。