水辺遍路

訪れた全国1万1,100の池やダムを独自の視点で紹介

有峰湖(富山県富山)

【ありみねこ / 有峰ダム】

百名山の薬師岳と有峰ダム

立山連峰の壮大な水力発電網の頂点に君臨するダム湖

百名山・薬師岳を後ろ盾に翡翠のような湖水が美しい。立山最後の秘境集落だった有峰村は1959年の有峰ダム竣工によって湖底に沈むが、その33年前の1926年、晩年に『日本百名山』を著すことになる大学生の深田久弥が後輩一人を伴ってこの村を薬師岳アタックの足がかりとしてビバークしている。すでにそのころは廃村となっており、深田は「村人は水力電気会社に祖先伝来の地を売って、金をふところに山を下った後で、軒が破れ柱の傾いた廃屋が点々としていた。草むらの中に崩れた墓の並んでいるのも哀れであった」と少々、辛辣な筆調で記しているが、村人たちに均一23万円を握らせて立ち退かせたのは電力会社ではなく富山県である。
もともとは県営だった有峰ダムの建設は太平洋戦争をはさんだことで中断し、北陸電力が規模を拡大した上で引き継ぎ、完成させた経緯がある。用地買収から完成まで40年もたっていた。


 

身の丈以上の水を集めた巨大さ

紆余曲折を経て生まれた有峰湖は、周辺の沢だけでなく、立山側と岐阜側の別の二本の水系からも導水トンネルで集水し、いわば身の丈以上の水を集めた巨大人造湖となり、ダム湖100選にも選ばれている。人が住まなくなって久しい秘境に、ぬっと無表情な巨大コンクリート建造物が顔を出す景観は、良い悪いを越えてどこか神がかったものがある。
ダム湖周辺は宿泊施設や展望駐車場などそこそこ観光化されている。湖畔道路から分岐する林道で折立まで足をのばせばロッジ、キャンプもある。折立は有峰湖と有峰林道のおかげで薬師岳登山口にもなっている。
廃村の有峰に泊まり後輩を引き連れての薬師岳アタックに失敗した深田は、撤退にさらに二日を費やさねばならなかった。この後輩はのちに熊谷組の社長となり、有峰ダム建設の現場視察でこの地を再訪し感無量だったという。
私が初めて有峰湖を訪れた2015年は霧のせいで、まったくもって何も見えなかった。展望駐車場で日暮れぎりぎりまで霧の晴れ間を待ってみたが、かなわなかった。
2018年の再訪で秋に染まりはじめた素晴らしい眺望、2022年秋には霧がかった光景に会うことができた。


霧が這いのぼる有峰ダム(2022年)


ダム湖100選の有峰湖。


有峰ハウスは宿泊もできる。


なぜか錦鯉。




案内板。




堰体周囲。2015年撮影。


便利な有峰林道マップ(有料道路ゲートでの配布物)※拡大表示可能

bunbun.hatenablog.com
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マークした場所は展望駐車場。