さんきょのいけ。山居池。
大佐渡のハイライト水辺。山中にたたずむ神秘と伝説の池。
大佐渡の山深く、たったひとつぽつんとたたずむ不思議な池。おそらく天然湖だろう。池の名もいわくありげだが、伝説にまみれたような魅惑的な池である。
標高340mと聞けばたいしたことはなさそうに思えるが、佐渡という島にいると数字を越えた山深さを感じる。
さらにこの池はブラックバスがおもしろいように釣れると聞いていたので楽しみにしていた。しかしいざ現地に着いてみると、湖面に木々がせり出していてウェーダーかフローターでもあればよかったのかもしれないが、どこか厳かな空気に包まれているうちに釣りのことを忘れてしまった。
この池の不思議さはその地形にある。空撮の結果、驚いた。まるで人造の調整池のようなきれいな周長500mの台形。自然にできた凹みに水が貯まったようには見えない。かといって土砂崩れによる堰き止めが成因にも見えない。不思議きわまりない。



大蛇が化けた男に恋した若く美しい娘の伝説。
おせんという美しい娘と、池の主の大蛇との恋物語が伝説として伝えられている。伝説にはバリエーションもあるが、現地の案内板には穏やかな結末のバージョンが記されている。
激しいバージョンは、おせんを追って池の流れを下った大蛇が、海への注ぎ口にある大ザレの滝で足止めを食らい、崖からオーバーハングする桜の木に巻き付いて下をのぞき込もうとしたところ、幹が折れて滝下に落ちて死ぬ。
海に面した断崖の滝、崖上に枝を伸ばす老桜、そこに巻き付く池の主の大蛇と、かなり凄みのある絵が思い浮かぶ。
大ザレの滝は現在も山居の池から流れ出した沢が海に注ぐ断崖にあり、県道の鉄橋がまたいでいる。
現地の案内板にはこう記されている。
山居は、光明仏を祀り、弾誓上人の開基といわれる。上人は尾張の人、天文年中の生木で木食行を積み、書家で奈良の名産「虎渓墨」の筆者と伝えられている。佐渡に渡って光明山を開き山居六年に及んだという。
いろいろな伝説があるが一説として、昔山居の池に男龍が住んでおり、近くの光明仏寺へ参拝に来る真更川のおせんという美しい娘を見そめた。男龍はその後、若い男に姿を変えおせんのところへ通った。そして二人は恋仲になった。ある夜、男の来るのが遅いので外へ出て待っているうちに、いつしか山居の池へ来てしまった。その時男が現れ、自分はこの池の主であると打ちあけた。おせんはもう男と離れることのできない自分を知り、いっしょに池の中へ入って行った。
(このあとの部分に、池の周囲長と深さが記されているようだが、読み取れなかった※筆者注)




アクセスは大佐渡北部の山岳を横断する1.5車線の舗装路で、マイカーやレンタカーでも問題ない。東側の海岸、西側の海岸のどちらからでも行ける。
ちょうど真ん中のあたりに光明仏寺がある。池はこの寺とも関係が深い。寺を通り過ぎて西の方へと山を上ると、まもなく左手に駐車スペースがある。「山居の池」と書かれた木の看板が立っているのだが、朽ちているので注意していないと分かりにくい。ページ末のマップには正確な駐車スペースの位置をマークしておいたので参考にしてほしい。
木陰ではあるが大きなアブが集団で猛烈にクルマにアタックしてくる音が、こん、こん、こん、やまないので落ち着かない。
駐車スペースのかたわらには石碑が立っており、登り坂の遊歩道が待っている。ここからは歩いて50mほどの登り。峠を越えて50m下ると池畔の一角に出る。
ここまで来ると虫の猛攻からは解放された。静かな水面に、ときおり、さあっと、さざ波が渡っていく。
マークした場所に駐車スペース。ここが池への遊歩道の入口にもなっている。