【布引貯水池。布引五本松堰堤】
新幹線の駅裏に、日本初の重力式コンクリートダムが!
タワーマンションをはじめビルが海に向けて立ちならぶ新幹線・新神戸駅前。日本を代表する国際都市の玄関口である。
ところが駅の裏手にまわると、クルマの音のかわりに渓流のせせらぎと、沢伝いにのびる遊歩道があって面食らう。駅から直線距離でわずか700m、この遊歩道を15分ほど歩いたところにあるのが布引五本松ダムである。
ダムを見るためには徒歩で渓流沿いの遊歩道を堰体まで行くか、新神戸駅前から発着しているロープウェーに乗って上から眺めるしかない。クルマでアプローチできない重力式コンクリートダムはめずらしい。建設時に大量のコンクリートが必要になるためダンプやミキサー車が通れる道路があるはずだが、ダムサイトに至る道は渓流沿いの遊歩道のみ。
日本で最初の重力式コンクリートダムとはいえ、よもや人力で運んだとも思えない。阪神大震災後の改修では、わざわざ工事用のトンネルを造ったが、一般車が通行できる仕様にはなっていないようだ。
ヨーロッパの古城、あるいは古い要塞を思わせる堰体は、国の重要文化財(登録有形文化財)をはじめ、「近代化遺産」「近代水道百選」にも選定。貯水池は「ダム湖100選」というタイトルホルダーでもある。
新神戸駅からのアプローチ
駅の一階のロータリーの一角に入口が
遊歩道を上流側に歩く
布引水路橋(砂子橋)
明治33年築造。布引貯水池の水を導水管で引っぱってきている。川はV字形の岩盤の谷で、橋のすぐ下で直角に折れ曲がっている。
雌滝から雄滝へ
雌滝は滝壺に人工の堤が設けられ、取水口となっている。
ドーム型の取水管理塔も現存。池の設備として見落とせないアイテム。
雌滝取水堰堤と取水口
雄滝
日本三大神滝である布引の滝のシンボル的な雄滝。勇壮な滝だが、観光客のために日中は布引貯水池の水を放水することで、水量が少ないときもしっかり滝を楽しませてくれる。布引ダムは上水道水源としてだけでなく、観光にも一役買っているのだ。
六甲山中、西側からのアプローチ
2017年の訪問はクルマだったので西側の修法ヶ原池近くのバス停から入るハイキングコースからのアプローチを試みた。
ナビではすぐ近くにダム湖があることが分かっていたので、ちょっと歩けばすぐ見えるだろうと甘く見ていたが、木々にさえぎられ歩けども歩けども眺望が得られない。
途中、滝山城趾を経由。地図上では、ほんとうにダム湖はすぐ真横である。しかし見えない。そんなつもりではなかったのだが、だんだん意地になってきて山道を歩き続ける。
あいかわらず眺望はない。しかし、よく手入れがされていて歩きやすく気持ちのいいハイキング路なので、ついつい歩きつづけてしまった。
少し行くと、やっと木々のあいだから眺望がひらけた。しかし見えたのはダム湖ではなく、神戸の町と海。あきれるほど都市が近い。ほんとうに、こんなところに日本最古の重力式コンクリートダムがあるのだろうか。
やがて急峻な坂道を下る。当然、帰路ではこれを登ることになるんだろうなあ、このへんで引き返した方がいいかなあなどと迷いつつも、後戻りできない何かに引っ張られ・・。
ええっ!? 頭上に見えるのはロープウェー?? いったい神戸とは、なんという都市なんでしょう。
けっきょく沢のあるところまで下ってしまった。ここで、かづら橋を渡り、新幹線の新神戸駅に直結する遊歩道に出る。写真だけだと、とんでもない山奥に見えるが、ここから10分も歩けば新幹線に乗れると思うと、やはりすごい。
猿のかけ橋から堰体まで
沢をまたぐ小さな橋だが、これもよく見るとかわいらしいアーチ橋になっており近代産業遺産なみ。
ここまで来れば、五本松ダムはもうすぐそこ。遊歩道は堰体直下に出る。そこから左岸側に階段があり、堰体の上に出られる。
非常用洪水吐は主堤には設けられていないらしく、左岸側に洪水吐だけをもった副堤があった。この副堤の上は遊歩道になっていてダム湖畔へと進める。
残念ながらダム湖内は立入禁止のようである。現役の上水道用の施設では水質悪化を防ぐために立入禁止になることが多いのでやむをえないだろう。天下の「六甲水」を供給する貯水池なのだから。
また、「魚つりを、してはいけません」との表示もあった。
ロープウェーから俯瞰で布引ダムを見る
布引貯水池と堰体の絶景を手軽に見ることができるのがロープウェー。新神戸駅から徒歩でロープウェー駅に行ける。
下の駅を出発して五本目の支柱を過ぎた直後、じつに素晴らしいアングルでダムの眺望が得られる。中間駅に着く前にダムは山影に隠れて見えなくなる。