霊峰鳥海山の七合目にある太古の火口湖。
みちのくの名峰・鳥海山は裾を日本海に落とし、どこから見ても颯爽とした雪代の似合う霊峰である。360度どこからでも、はるかに離れた町からでも、あれは鳥海山とすぐ分かる点において関東の富士山のごとき存在であり、ふり仰ぐ麓によって出羽富士、秋田富士、庄内富士とそれぞれの愛称をもつ。
観光道路の鳥海ブルーラインは二車線区間が多い快走路で、日本海に面した象潟や遊佐の町をあっという間に下界に置き去りにする。
その下界から見ると颯爽とした印象の鳥海山であるが、いざ山に取り付いてみると、えぐられた深い峡谷から湧き上がる霧、神々の庭のようなテーブル状の草地に穿たれた池塘(ちとう)、そして新旧の火口と火口壁、溶岩ドームと、歩くのに飽きる時間もないほど複雑な変化をもった山であることに驚かされる。
たびかさなる噴火、山体崩落によって麓には松尾芭蕉も愛した景勝地・象潟を生み出したが、松島のごとく海に九十九島(つくもじま)を浮かべた景観も、その後、象潟地震による海底隆起で陸地化したことで一変した。
鳥海山は百名山にも挙げられており、「頂上火口の険しい岩壁、太古の静寂を保った旧噴火口の湖水、すぐ眼下に日本海を見おろす広々とした高原状の草地」と鳥海湖についても言及されている。
鳥海山は古い火口をもった火山の一部がさらに噴火を起こした上、新火口の中でもなお新たな噴火で溶岩ドームがせり上がり、いってみれば二つの火山を合体させ、古い火口には湖が、新しい火口には溶岩ドームができた形である。
この旧火口内の湖が鳥海湖で、山全体の七合目にあり、火口壁上には山荘もある。五合目まではブルーラインのおかげでクルマで快適にアクセスできるので、鳥海湖に会うだけであれば五合目から七合目までの往復で済むので往復で四時間程度。
雪解けが遅く、快適に歩けるのは七月以降。そのころからは短い夏を惜しむように一斉に咲き急ぐ高山植物がいとおしい。
この日、日の出とともに五合目を出発し、午前7時過ぎに鳥海湖に着いた。
日本海の方にいくつか不安定な雲が見え、中にはまっすぐ鳥海山に向かい、一陣の冷気とともに視界を真っ白に包むものもあった。
澄み渡った鳥海湖と山頂をフレームに収め、ほっと一息つくまもなく竜の舌のような雲が火口壁を這い越えてきたかと思うと、あれよあれよという間に霧に呑み込まれ何も見えなくなってしまった。この日、鳥海山は夕方まで雲にすっぽり覆われた。
鳥海北麓の水辺マップ(ver.1.1)
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鳥海山登山マップ(にかほ市発行のパンフレットより)
マークした場所は、五合目駐車場。トイレ、ビジターセンターあり。