水辺遍路

訪れた全国1万1,100の池やダムを独自の視点で紹介

美登鯉橋の舟溜り(岐阜県大垣)

京都アニメーション作品として映画化された『聲の形』の重要なシーンでたびたび登場する美登鯉橋は、水辺空間としても魅力的なたたずまい。

地下水に恵まれた「水都」は、映画の舞台がよく似合う。

ちょうど美登鯉橋のあたりが水門川と運河の合流地点で広がりのある池状の空間になっていることと、いじめの過去を引きずる若者たちの青春群像を描いた漫画で映画化もされた『聲の形』の重要シーンの舞台となっていることから、かねがね行ってみたいと思っていた。
そもそも映画を観たのはNHK教育(Eテレ)で放映されたのがきっかけ。Eテレでアニメ映画とはめずらしいなあと思って軽い気持ちで観たら、年甲斐もなく撃ち抜かれ、連続三回も見通してしまった。
中学一年のときに、少し似た経験があった。そのときは悪意という気もなかった。
制服のブラウスがいつもちょっとだけ汚れている女の子がいた。残酷な世代の少女たちはそれを見逃さなかった。少年らがそれに便乗する。ウケたいだけの軽い気持ちだった。ウケると嫌な自分にも慣れていった。
学年の最後に、各自が一年でいちばん印象に残った思い出を発表するクラスの場があった。チクられるんじゃないかと身構えたが、その女の子が語ったのは遠足帰りのバスの話だった。楽しかった、あれほど笑ったことはなかったと、それだけ言った。
撃ち抜かれた。
そのバスのことは覚えていた。クラスメートの多くが疲れて眠っているのをいいことに、うたた寝のガイドから車内マイクを奪った私は、調子にのってモネマネか何かで延々と喋りつづけた。自分のまわりが軽薄に笑っていれば幸せだった。同じ班だったその女の子はたぶん、ひとりで離れたシートに座っていたのだろう。
中学二年になって転校した私は、ほどなく池めぐりをはじめた。
それにしても美登鯉橋という橋名は美しい。
市街地のただ中なのに、護岸の一部は渓流のような大岩が残され柳が翠の陰を落とし、屋形船や石組みのアーチ橋もあったりして、往時の大垣の水運を思わせる情緒が漂う。
階段状の護岸で水辺に親しめる構造になっているのもいい。水は澄んでおり、映画では少年時代および思春期の主人公が飛び込むシーンもあるが、想像していたより水路は狭い印象だった。
映画にも出てくる鯉は、実際に目の前で群泳する数が圧巻だ。ほか、ボラらしき魚群も見られた。浅い水底にはグリーンのストールのような長い水草が流れに揺れている。
一帯は水辺のウォークコースに設定されており公衆トイレもあるが、美登鯉橋周辺には公設駐車場はなく、また住宅地でもあるので路上駐車は避けたい。近隣のコインパーキングを利用するか公共交通機関で。

水門川と運河の合流点ということもあって、池状の魅力的な水辺空間がひろがる。


ボラの群泳。とにかく魚影が濃い。


おー!! この建物は!? 下に公衆トイレがあります。


美登鯉橋と運河。


おおおーーっ。ここは!! あの!? 夏には滝になる。


大垣は芭蕉「おくのほそ道」の終着点。関ヶ原の戦いの重要拠点など、歴史とのゆかり深い水の都でもある。