水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

滝ノ沢沈殿池(秋田県大館)

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堰体に沿ったパイプラインにわずかな痕跡をとどめるだけで、池は埋め立てが完了していた。

水辺遍路史上、最大のトラウマを乗り越えて。

日暮れまで一時間。五月だというのに前がどうなっているのか分からないぐらいに雪が降っている。
滝ノ沢沈殿池に行こうとハイエースで砂利道を登坂していた。雪は降り始めで積もってはいなかったし、ダートといっても900mも進めば池に出るはずだったので、慎重に進んでも数分で着くと踏んでの強行だった。
ナビ上ではもう100m横に池があるところまで来た。しかし、わずか数分で一帯を白く埋めた雪によって、道がぬかるみはじめていた。たった100m。クルマを置いて徒歩で写真だけでも撮りたいところだったが、あきらめた。かろうじて転回させるスペースがあったので、クルマを下まで戻すことを優先させることにした。しかし転回スペースもぬかるんで二駆のハイエースには厳しい。無難に来た行程をバックで戻ることにした。長年、水辺めぐりをしていれば延々、バックで戻ることはたびたびある。
たいした曲折路ではないし、惰性でも走れる下り坂。道幅も極端に狭いわけでもない。ただ、バックミラーにどんどん雪が積もり、後ろがよく見えない。
右カーブで外側の後輪を脱輪させてしまった。灌木にクルマの側面が当たって大きくずり落ちることはなかったが、スタックで脱出が難しくなった。雪はどんどん降る。まあ五分も歩けば町なので死ぬことはないが、このまま雪が降りつづけるようだったらハイエースをここに打ち捨てて行くことになるのか思うと、やるせなかった。
ふと思いついて、ハイエースに積んでいる緩衝材用の毛布を引っ張りだしてスタックしたタイヤの下に敷いて脱出成功。
後日、確認すると池が見える場所まで、あと120m・・。しかし脱出劇のあと、幹線国道でさえ除雪車が出動するほどの雪になっていた。五月とはいえ北東北の雪を侮ってはいけないと思った。
毎年、ゴールデンウィークにはスタッドレスタイヤをはずし、冬期は車内に常備しているチェーンとスノーシャベルもガレージに戻していた。この件以来、東北に行く予定があるときは六月まで冬期装備を解除しないことにした。また、雪にかかわらずハイエースはスタックに弱いので、不要な毛布やバスタオルを大量に常備することにしている。
2018年五月、リベンジの機会が訪れた。
冬用装備のハイエース。しかし気温はこの日、七月なみという29度。
それでもトラウマのせいかハイエースで行く気になれず、オートバイを射出して乗り込む。オートバイで入ってみると、なんてことはない道で、あっという間に滝ノ沢沈殿池の堰体上に出た。あの雪の日と同じ場所と思えなかった。

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堰体から下を見おろす。


滝ノ沢沈殿池のある花岡町はかつて露天掘りの鉱山町として栄えたところ。中国人労働者の強制連行や花岡事件など、日本の負の歴史の現場でもあるが、今から20年前に廃坑になってからは、産業廃棄物の処分場として稼働している。
沈殿池とは鉱滓ダムとも呼ばれ、炭鉱や鉱山などで工場廃液に含まれる微粒子を沈殿させる巨大な浄化槽みたいなもので、全国の炭鉱や鉱山跡地に見られる。
滝ノ沢沈殿池は現在は航空写真で見ると埋め立てが進んでいるように見える。原発事故後、千葉県松戸から放射性セシウム濃度の高い焼却灰がここに持ち込まれ埋め立てられたという問題も露見したが、実家のある松戸とそんなところで結びつくとは思いもよらなかった。

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滝ノ沢沈殿池の堰体。ダムスペックは余裕で満たす。


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アプローチ路(左)と花岡町から国道への道(右)