さるさわいけ。
奈良時代に築造された元祖・舟祭りの池。
天平21年(749年)に興福寺の放生池として築造。俗謡に「澄まず濁らず、出ず入らず、蛙湧かず藻が生えず、魚七分に水三分」と猿沢池七不思議が伝えられているが、訪れたときは水が濁っていたから、すでに七不思議のひとつは微妙な感じなのかなと思っていたら、1959年に池が赤く染まって大騒ぎになったこともあったそうだ。
魚七分に水三分とはおそるべき魚影の濃さであるが、これは生き物の命を哀れみ、食べるために殺すはずの魚を買い取って放流する目的で造られた池だから、そういう時代もあったのだろう。今はとりたてていうほどの魚はいなかった。
とはいっても池を取り巻く風物は古都パワー全開で、文豪・芥川龍之介や泉鏡花の伝奇小説の舞台にもなっているだけあって、その妖艶で幻想的な空気感はさすがというしかない。南側の岸から見ると五重塔を従え、これぞ奈良。
中秋の名月のころ、午後7時から舳先に龍と鷁の首をあしらった二艘の神事用の舟が池に浮かべる采女祭りが行われる。
舟には、十二単姿の女性やミス奈良が乗り、水面を漂う40もの灯籠のあいだを縫って池を二周する。
中秋の名月は、早い年では9月12日、遅い年では10月に入ってからと幅があるので、事前に奈良の観光情報等で日程の確認をしておくとよい。
池に舟を浮かべる神事は、愛知県の丸池、静岡県の新宮池でも見られる。
興福寺。
夜の猿沢池。
奈良の水辺めぐりマップ。
<資料・写真アーカイブス>