水辺遍路

訪れた全国1万1,100の池やダムを独自の視点で紹介

洒水の滝(神奈川県山北)

 洒水の滝は、落差69mの一の滝を含む三段の名瀑である。
「洒水」は仏教用語で、穢れ、不浄をそそぐ香水(こうずい)のことで、かつては滝打ちによる水垢離の場であった。ここで百日にわたる荒行をした人物として鎌倉時代の文覚上人が知られている。この人物は『平家物語』をはじめ、『源平盛衰記』『吾妻鏡』『愚管抄』といったそうそうたる古典にも登場し、流刑地だった伊豆で知り合った源頼朝のために、ときには彼の亡父の髑髏(どくろ)を見せて決起を迫ったり、後白河法皇に平氏追討の院宣を出させたりと、鬼神のごとく頼朝の陰の力となって暗躍。鎌倉幕府成立の黒幕ともいえる人物なのだ。
 荒れた海をも鎮める法力をもつと怖れられた文覚上人。その力を得るまでの若き日の修行の苛烈さは常軌を逸しており、残された伝説はここ洒水の滝だけでない。あまりの激しさに命を落としかけた熊野の那智滝での千日籠りをはじめ、足跡が残っている地は大峯、葛城、高野、粉河、金峰山、白山、立山、富士、伊豆、戸隠、羽黒と、日本の名だたる修行の地を踏破している。
 ここまでこの人を荒行に駆り立てたものは何だったのだろう。
洒水の滝|水辺遍路


「日本の滝百選」「全国名水百選」選定。

・かながわの景勝50選 1979年(昭和54年選定)
・名水百選 1985年(昭和60年選定)
・日本の滝百選 1990年(平成2年選定)
・かながわ未来遺産100 2001年(平成13年選定)


その人生は、多くの文学・映画のモチーフに

 遠藤盛遠(もりとお)という若武者がいた。職業は北面の武士。皇居の警備にあたる仕事で、いわば警察庁警備畑の若きエリートである。彼には幼なじみでいとこにあたる袈裟御前(けさごぜん)という意中の人がいたが、彼女は遠藤の職場の同僚と結婚してしまう。結婚式で再会してから断ち切れぬ思いは日増しに募り、ふたりは逢瀬をかさねることになる。
 武勇勝る遠藤が大手柄をたてたとき、飛ぶ鳥落とす勢いの平清盛に好きな褒美をとらせると言われ、公衆の面前で「袈裟御前がほしい」といって失笑を買うほど一途な思いだった。袈裟御前も思い悩み、夫を殺めてほしいと遠藤に頼む。御前におしえられた手順で夫の寝所に忍び込み、難なく布団の上から襲い討ち取ることに成功する。首を切って庭に放り投げると、あろうことか袈裟御前の透き通った白い顔が月の光に照らしだされていた。
 深く悔い、命を差し出すつもりで自首した遠藤だったが、御前の夫である同僚は、自分の業のせいだといって出家する。生きて業を負うことになった遠藤はもがき苦しみ、死に取り憑かれたかのように荒行を求めて旅に出る。
 若き文覚上人のこのエピソードは後世、多くの文人にインスピレーションを与え、芥川龍之介、菊池寛が小説化したほか、カンヌ映画祭グランプリを受賞した『地獄門』、漫画では手塚治虫の『火の鳥』のモチーフとなっている。

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