かせがわだむ。富士しゃくなげ湖。
小学二年のとき、東京品川からとつぜん九州に引っ越すことになった。初めてジャンボジェットに乗った。
父の仕事が何なのかは当時はよく分からなかったが、東京ではケンカは弱い方ではなかった自分が九州に来てみると最弱ランクに転落した。九州のやつは滅法強いと童心に鮮烈な記憶として刻まれた。方言も強烈だった。
35年後の2012年、千葉県で隠居生活をしている父が2日ほど飼い犬の面倒をみてくれないかと電話してきた。かつて携わっていたダムの落成記念に招待され九州に行くのだという。
当日の朝、交通費は自費やとぼやく父を見送りながら、ふと疑問に思った。
佐賀県にいたのはもう35年も昔。完成にそんなに時間がかかるダムにはどんな紆余曲折があったのだろう。嘉瀬川ダムという名前を知ったのは、そのときだった。
嘉瀬川ダムによってできた湖は富士しゃくなげ湖と命名され、すぐ上流にある北山ダムから県下最大の人造湖の地位を譲り受けた。ダム造成に合わせて整備された国道323号線は佐賀平野と玄界灘のあいだに立ちはだかる背振山地を貫く高規格幹線道で快適なドライブルート。
ダム湖に沿って産直売り場、駐車場、トイレがある。
高さ97mの堂々たる重力式コンクリートの堰体に立つと、谷からの風が強く吹いていた。富士しゃくなげ湖の底には160戸が眠る。
<エピソード>
昭和がゆっくりと幕を下ろそうとしていたころ、映画俳優・渥美清のもとに一通の手紙が届いた。水没予定の集落に住む小学生からだった。
「ぼくの故郷がダムに沈んでしまいます」と記されたその手紙は、平成元年、『男はつらいよ』第42作のロケへとつながっていく。
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広大な面積をもつダムの湖水面活用については、まだ協議が行われている最中のようだが、面積とアクセス性のよさを生かしてボート競技場にすることも検討されているようである。すぐ隣にある北山ダムのように釣り人にも開放されるかどうかは不明だが、今後の動きに注目したい。
<施設・設備>
産直売り場、駐車場