出勤待機用と癒し用の二つの水牛の池
全島が企業が運営する観光島になっている由布島。目玉は水牛。
島に上陸する手段は水牛が曳くリヤカーに屋根が付いたような水牛車しかなく、乗車料とともに島の入園料も必要。水牛車には時刻表もあり、30ふんごとに定期運行されている。
この島は観光だけでなく、水牛の肥育・訓練も行なっている。もともと島に水牛がいたわけではなく、台湾から持ち込まれたつがいの子孫たちで、一頭一頭たいせつに育てられている。
由布島の水牛は働き方改革のお手本のような感じ。けっして無理はさせない。基本的に水牛のペースで進み、交代要員も多く、休暇、定年もある。
浜で待機していた水牛は、船頭さんが声をかけると自分から水牛車の牽引棒に頭をくぐらせる。
「もうちょっと休みたかったな〜って、顔してますね」
と船頭さん。
由布島の水牛は、特別な事情がないかわり、一頭の牛に一人の船頭がずっと付き添う。よって担当者の休日は、牛の休日と同じ日に。
干潟を水牛車に揺られて進むと、正面の由布島が少しずつ大きくなってくる。このとき、深いところでも牛の膝ぐらいまでしか水深はなかった。
牛の体格や経験によって曳く水牛車の定員が10名用、14名用と異なるそうだ。車内はほどよい重量バランスになるよう船頭さんが乗客の体重を予測しながら配置を指示する。だから勝手に席を移動したりすると牛に負担がかかる。
由布島に上陸すると、最初に池が目に入った。水牛が肩までどっぷり池に浸かっているではないか。
「水牛の池」と名付けられているが、正確には二つある。
「こっちの池はこれから仕事に出る牛が気合を入れるために朝風呂を浴びる池。そっちは休暇の牛が休んでいる池。デビュー前の仔牛なんかもいますね」
池の一角に立っていた仔牛に、曳いている牛がチラと目をやった。
「ああ、あの仔牛は、この子の娘なんですよ」
この島での仕事を定年退職後は沖縄本島をはじめ観光業で第二の人生を送る牛も。
水牛の教育担当の人は、二年かけてゆっくり育てるという。無理はさせず、他の牛をいじめるようなことをしない限り、叩くこともない。叩いて無理させるのは農耕向け、そのやり方は観光には合わない、と言う言葉が印象的だった。
池のまわりは遊歩道に囲まれている。マークした場所は水牛の池。