水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

田原川水源の池(田原水園)(沖縄県与那国島)

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水源地の池。池の左側は丘陵。右は田原川。この池からの流れ出しが丘陵のへりをなぞるように田原川と並行する

絶海孤島の水道水はどこから? 取水口を探して川をたどる

与那国島。
ニッポン本土はおろか、沖縄本島よりも台湾の方が近いという絶解孤島だけに、この島の水道は海水淡水化施設しかありえないと思っていたが、「川から水を取っている」という宿のおかみの言葉もあって、与那国島二日目は水源を求めて川をたどってみることにした。

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島の川ならではの手軽さ。でも・・。

取水口があるのは田原川という全長2kmほどの小さな川。
河口から源流まで手軽に歩ける距離だ。離島でなければ、なかなかこうはいかない。
では、おかみの言っていた取水口を見つけてスッキリ一件落着、となったかというと、これがなかなか・・。
予期せぬことに、水源地で二つの池と出会うことにもなり、謎は深まる。

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手前は田原川。奥が池。草に埋もれそうだが、コンクリート製の堤のようなものが見える。つまりは人工の池?


 

与那国島の水道事情

与那国島の水道は石灰分が強く、こまめに手入れをしないとシャワーヘッドが詰まったり洗濯機が壊れたりする悩みがあったが、宇良部岳中腹にある浄水場で硬度処理施設が建設中だった。(2020年現在) 稼働すれば島の水道事情は大きく改善されるだろう。

bunbun.hatenablog.com


資料との不整合

与那国島の上水道水源のうち田原川からが7割、残りの3割が地下水という情報もあったが、沖縄県が公開している「沖縄県の水道概要(H23)」では、与那国島の水源は「地下水・伏流水」となっており「表流水」とは記されていなかった。
他の地域では「ダム直接」や「表流水・地下水」といった記述もあることから、与那国島では田原川を流れる水は上水道水源として使っていないと読める。

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田原川の河口から1km地点。左手の林の中を併走するように、もうひとつの謎の流れがある


 

集落から田原川をたどる

田原川の地図にはない別流

民宿のおかみによれば、この川のどこかに上水道水源の取水口があるとのこと。
河口から500mのところで二つに分岐している。もう一方の流れは原生林のへりを本流と併走するようにのび、水源地近くで再び本流に肉薄する。ただしこの川筋は地図には載っていない。
ひとつずつ行程をみていこう。

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河口から1km地点の川の分岐。分かれた本流はここで直角に折れ曲がり、宇良部岳の方へ向かう。下は支流側。
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パイプラインとティラピア軍団

支流の方は畑の中に沿った用水路のような感じだが、河床は草ぼうぼう。
一方の本流の方はパイプラインが川の中を通っているが、これは製糖工場にダイレクトに水を引くためのパイプだという。
少し歩くと水の透明度が徐々に上がり、にわかに魚影が濃くなってきた。30センチ以上の魚体の群れ。最初、鯉かと思ったが、よく見ればティラピア。

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ティラピアの群泳


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川の中を通るパイプライン


 

水源地は三叉路から

駐車スペースと案内板

濃厚な魚影を楽しみながら川沿いの舗装道を歩いていくと、まもなく宇良部岳を背に給水所と駐車スペースが見えてくる。
トラックで水をもらいにやって来る農家のための設備だが、一般向けの案内板もあり、田原川に生息する魚類などについて写真付きで説明してくれている。せっかくの案内板だが古くなって判読が難しくなっている。

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農家用の給水設備
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給水所の横に池が

給水所の駐車スペースの場所では道は三叉路になっている。
それまで道に沿って流れていた田原川は、ここで別れて山の方へとのびている。
この三叉路の一角が池になっている。全体的に浅く、湿地の水たまりといった様相。ちょうど水を汲みに来た地元の農家の人に池名を尋ねたところ、知らないとのことだった。

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池があるのは田原川と山裾にはさまれた15mほどの空間。
田原川側から池を見ると、驚いたことにコンクリート製の堰堤らしきものが見えた。草で分かりにくいものの頂部が丸く成形されており、これは越流堤の特徴である。川の水面と堤頂は1mほどか。
池水面が高いことから、どこからか別の流れ込みがある可能性もあるが確認できなかった。山裾という立地から伏流水の湧水池なのだろうか。
航空写真で、先に述べた地図にない流れの源流をたどると、なんとなんと、この池に行きあたった。
そして直角に折れ曲がった本流をはさみ、この池の向かい側には、もうひとつの人工池があった。

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対岸に位置する、もうひとつの池

田原川は給水所の地点で本流に落ち込むコンクリート堰を経て二筋に分かれる。
本流よりも数十センチ高い水位で堰かれているが、砂が溜まって貯水能力は水たまり程度になっている。それでも、メダカのような魚とジャンボタニシ、巻貝類が見られた。ジャンボタニシの産卵場にもなっているようだ。

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左が本流。右が取水堰と池
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さらに古い堰と水くみ場(田原水園)

この池の流れ込み川は片側が崖になり、洞門のような感じに。足もとには、数十センチのかわいらしい石造りの堰があり、足場も設けられていて、いかにも昔の水くみ場といった風情。
かたわらには「田原水園 昭和二十七年」と刻まれた石碑も。
流れはこの少し先で本流と合流する。

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水くみ用と思われる小さな堰と石碑
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パイプラインの取水口。魚影が濃くて大興奮

取水池に対し、本流側は製糖工場用の取水パイプラインの取水口があり、水の透明度も高く、ぴかぴかの水で魚影も濃い。
ティラピアは姿を消し、かわりにオオグチユゴイが目立って多くなった。

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パイプラインとオオグチユゴイ


水くみ池の流れ込みと本流の合流部

美しい渓流の様相。オオウナギが泳いでいるところに、たまたま鉢合わせた。オオウナギにまとわりつくようにオオグチユゴイが戯れる。
ゆらゆらと誘うような飛び方が特徴のオオゴマダラの雌雄が舞い、まさに楽園の様相。

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上水道水源は、すでに廃墟?

合流部からさらに管理用の道路を少し歩くと町の取水設備があり立入禁止ゲートフェンスの先に小さな取水堰が水音を立てていた。
そこから先は進むことができず、これ以上、水源の源をたどることはできなかった。
建屋にあった設備は浄水場に向けて水をポンプアップする揚水機と思われるが、扉は開けっぱなし、中は錆び錆び。
これはいくらなんでもおかしい。

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ここより先はゲートで封鎖。写真左側を田原川が流れている

沖縄県の資料にあったように、すでに田原川の表流水は水源として利用されていないと見ていいようだ。
では、現在の上水道の取水口はいずこに?
ゲートから先の田原川を航空写真上でさかのぼっていくと、宇良部岳の奥へと深く切り込んでいくことなく、山裾のあたりで川筋は途絶えている。地下水脈でつながっているのか定かではないが、川筋の延長線上、すぐ近くに池らしきものもあった。
この池も含めて次の機会に調査をしたい。
川筋が二つに分かれている謎については、睡眠中、夢の中で仮説が浮かんで朝四時に目覚めてしまった。
池から流れ出し丘陵のへりをなぞっている方がオリジナルの田原川で、道路に沿っているもう一方の田原川は製糖工場用のパイプラインが設置できるよう造られたバイパスルートでは? 道路に沿って、直線的でありながら直角に曲がる川筋は人工的な感じもする。
ただ現在の本流をバイパスとするなら、水源の二つの池の関係についてうまく説明ができない。
やはりもう一度、日本最西端の島を再訪する必要がありそうだ。
魚影も濃く釣り道具を持っていかなかったのも心残りだっただけに。

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しかし建屋の中はなぜかフルオープン


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フェンスごしに流れの奥を見ると、取水堰らしき堰体と鋼管がちらりとのぞく


 

田原川で確認できた魚と生き物

オオウナギとオオグチユゴイ

現地の案内版にも記載されていたオオグチユゴイを撮影していると、水源直下あたりで黄色いウナギを発見。追いかけて撮影。
地元の人に、黄色いウナギみたいの見たんですが、と訊くと、タウナギではないか、と。しかし写真を見るとヒレがあることから、タウナギではなく、オオウナギのようだ。
なぜだかオオウナギはオオグチユゴイに大人気で、まるでスターのようにオオグチユゴイがまとわりついている。
オオウナギはエサを使った夜釣りで、オオグチユゴイはルアー釣りの対象にもなる。


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オオグチユゴイがまとわりつくオオウナギ
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オオグチユゴイ
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ティラピア

オオグチユゴイは取水口周辺の水のきれいなところにいたが、少し下るとティラピアが多くなってきた。
黒いもの、白いもの、青っぽいものと体色にバリエーションがあった。
この魚もルアー釣りの対象魚になる。

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茂みの下に黒い影。なかなか大きい。


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こんな物陰にも。ルアーをすっと通してみたくなる


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その正体はティラピア。上は青っぽい個体
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メダカ? カダヤシ?

昔、取水していた場所と思われる引き込み井戸のようになった泉には、メダカのような魚が。

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ハゼ

二種類のハゼのような魚を確認。

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この子は細長くて、塩ビ管がお気に入りのようだ。オオグチユゴイの稚魚はお友だち?
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こちらのハゼのカップルはちょっと大きい

 

貝類とオオゴマダラ

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貝類が歩いたあと?
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ピンクの塊は、なんとジャンボタニシ(外来種)の卵


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オオゴマダラ
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地図

田原川水源の謎マップ

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八重山諸島の島池さんぽマップ

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八重山諸島の島池さんぽ(ver.1.08)

Googleアースによる3D地形

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標高231mで与那国島最高峰の宇良部岳(うらべだけ)をGoogleアース3Dで北側から。山麓に浄水池と配水池がある。

Google マップ

マークした場所に駐車スペースと案内板