しもくざわぶんすいち。
住宅地の中にぽっかりと穿たれた巨大な円筒分水池。
円筒分水池は、自然の力だけを利用して正確な比率で水を分配できる設備。
水を分配する設備は江戸時代ごろから水争い解消のために造られてきたが、円筒分水工はいわばその最終的な完成形として近代になって考案された。産業遺産ブームもあって近年、脚光を浴びるようになってきた。
それにしても住宅地のただ中に突然現れる巨大な石積みのすり鉢には圧倒される。フェンスごしにすり鉢の底に目を落とすと円筒分水池のコロッセウムのようなたたずまい。
津久井分水池を出た水道用水を川崎市と横浜市に振り分ける機能を担っており、これほど立派な円筒分水池が現役で稼働していることに、ただただ驚かされる。
公正さの強烈なるビジュアル化。
古来から水の奪い合いの歴史は長く、戦前までは水争いで死者が出ることもめずらしくないほど苛烈だった。解決策として水を公正に分配するための仕組みが考えられてきた。
水路を流れる水は、水面と底、岸と中央とでスピードが異なる。カーブしていれば外側と内側とでは流速が異なる。こういった条件もからんで、水の公平な分配というのは意外に難しい。
いろいろな分水方式が編み出されるが、円筒分水はその正確性と安定性ですぐれた分水法であるが、何より「公平感」をビジュアルで実感できる透明性が素晴らしい。
どんなに公平だといわれても、コンピューター制御のブラックボックス分水池では、不正や疑惑で争いは減るどころか増えていたかもしれない。
敷地内は立ち入りできない。また、周辺に駐車場や駐車スペースはない。
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