その里池は、神々のオアシスを映す。
「クロマンタ」と呼ばれる黒又山。顔を動かさずともすっぽり視界におさまる、こじんまりとした山だが、その足もとにはどこか不思議な面立ちの池がたたずみ、ピラミッドのような稜線を映しだしている。
一見、なんでもないようなこの場所の空気に、その道の人にすれば、ただらなぬエネルギーを感じるのかもしれない。ただの池好きにしてみれば、堤を覆う草地のあっけらかんとした明るさ、そこから伸びた数本の木の生え方に少しだけふつうと違うものを感じた程度だが、ここはストーンサークルとピラミッドが対座するUFOマニアの聖地と聞けばどうだろう。
池自体は農業用の溜め池としてずっと後世に造られたものだと思うが、道をはさんだ池の真向かいには小豆色に塗られた小さな鳥居があり、人の踏み跡が山を這いのぼっている。
黒又山の発掘調査では、山頂直下の土中にメンヒル(立石)が埋まっており、祭祀に使われたらしき痕跡が刻まれていた。じつはこの山自体にも謎が多く、木々の衣の下には礫を積み上げた階段状のテラスが山体を覆っているという。
さらにこのピラミッドをやや離れて拝める地点には、巨大なストーンサークルまである。これは現在、国特別史跡「大湯環状列石」として観光整備され、駐車場、トイレ、遊歩道が用意されている。
明治生まれの画家・鳥谷幡山がかつて黒又山を題材に一枚の絵をものしたが、その空に描かれたものとタイトルは奇妙なものだった。
「天象之奇端 光芒之旗幟」
そのタイトルのとおり、長い幟(のぼり)のような光が黒又山の上空で尾を引いている。
アイヌ語の「クル・マッタ」がいつか「クロマンタ」に転じていったという説もある。
クル・マッタ。それが意味するのは、神々のオアシス。
光芒とともに空から舞い降りたものたちを前に、縄文人がそこに神々を見たとして何の不思議があろう。
マークした場所は池前の駐車スペース。