地元の人でも見たことがないと、口をそろえて言う。タクシーの運転手さんも、居酒屋のご主人も、見たことがないという。この池に魅せられつつも会えるまでに25年を要したと言う人もいた。
雨後だけに現れるという伝説の山上湖、池上池。
標高530mの山頂近くに位置し、周囲長はおよそ400mにおよぶ。
もとは室戸で鯨を捕っていた漁師たちの信仰を集めていたようだ。麓にも池山神社が分祀されているが、その宮司さんでさえ池そのものは見たことがないと聞いて驚いた。
現れたり消えたりする池。池そのものが御神体と信じる人がいるのもうなずける。
大蛇にまつわる『池山物語』の伝説も室戸市史に掲載されているが、じつは池界のスーパースター弘法大師が「空海」というハンドルネームを思いついた場所こそこの室戸なのである。
空海がこの池のことを知っていたかどうかは分からないが、この池で調伏された大蛇が逃れた先が空海の手がけた讃岐の満濃池だったという話もあり、じつに興味深い。
池では古くから雨乞い参拝のほか、室戸の秋を彩る神祭り前にご挨拶登山も行われてきた。現在は春と秋の年に二回、地元有志らによって清掃活動を兼ねたお参りの伝統が守られている。
正規ルートは室戸市街地のはずれにある金剛頂寺から山岳路を徒歩2時間半。標高537m、直線距離で5kmほど。
距離的に最短なのは池の東側にある室津川沿いの河内集落からのルート。1時間ほどの登山で行けるという話だが、急登の荒れた獣道なので地元の人でもこのルートを使う人は少ない。