水辺遍路

訪れた全国1万1,100の池やダムを独自の視点で紹介

皿池(和歌山県和歌山)

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この池では刑法第130条(住居侵入等)と、軽犯罪法第一条第三二号という法的根拠を明示している。

釣り禁止の法的根拠が示された池。

紀の川流域の野池めぐりにおいては、池に掲げられた規制看板の厳しい文面を楽しむぐらいのスタンスがないと、池が発する厳しい敵意に、次第に心折れそうになってしまう。
この池では刑法第130条(住居侵入等)と、軽犯罪法第一条第三二号という法的根拠を明示し、この池で釣りをすることが犯罪であると謳っている。
今年は憲法改正について国民が本気で考える年になりそうだし、せっかくの機会なので法律の条文を読んでみた。
刑法130条の条文は「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。」とある。
なるほど、私有地内の池ならともかく、国税県税が投下されている公共財産である溜め池に対して、どこまで130条を適用できるのか、判断が難しい場合もあるのではと思った。
しかし看板に抜かりはない。
もうひとつの軽犯罪法第一条の方は、秩序を乱す困った人のパターンを「〜号」というかたちでいろいろ列挙しているおもしろい法律だ。
「街路又は公園その他公衆の集合する場所で、たんつばを吐き、又は大小便をし、若しくはこれをさせた者」なんていうのもあるし、「こじきをし、又はこじきをさせた者」というのもある。この法律によれば、こじきは国民の権利ではなく犯罪ということらしい。
さて、その三二号が「入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入つた者 」
あいまいすぎてびっくりした。確かに、田畑に準ずる溜め池は、この法の適用にぴったり。しかし何をもって「入ることを禁じた」とするかが明示されていない。
入ることが禁じられた境界ラインは柵なのか、看板設置場所なのか、その範囲は何mまで適用されるのか、もっと詳しく規定されているのかと思った。
これでは極端なことをいえば、土地管理者がオレが禁止と言ったから、といったレベルでも、警察が認めれば逮捕ということになってしまうんじゃないかと心配になる。
さすがに権力の濫用を規制する条文もあって(第四条)、「国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない。」となっている。
また、軽犯罪法では拘留と罰金までしかできず、特別の理由がない限り逮捕はできないようだ。
拘留と逮捕の違いが一般人には分かりにくいが、いずれにしても、釣り自体を罰する法律ではない。カルロス・ゴーン逮捕で世界が騒いでいた「形式犯」は、じつはこんな身近なところにも?

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