水辺遍路

訪れた全国1万1,100の池やダムを独自の視点で紹介

鹿伏ため池(新潟県佐渡)

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「鹿伏ため池」と記載されているが、この溜め池の名とは限らない。単に、鹿伏台地にある溜め池という可能性もある。佐渡ではいまだ地図に記載されていない池も多く、行政も池名をあまり把握できていないようだ。

ホテル大佐渡がランドマークの春日崎。大海原に差し出された鹿伏台地は、江戸初期から溜め池と新田開発がなされ、佐渡金山の発展とともにあった。
今も段丘のあちこちに周長50〜100mクラスの掘り込みの小池がきら星のようにまたたいている。池を掘ることなら金山のお膝もとだけにお手のもの。鉱山の掘削技術が活かされているそうだ。
一方、古い区割りの農地や溜め池たちも、平成の終わりに大きなリニューアルを迎えている。
網の目のようにめぐらされたあぜ道を通じてしか行けなかった池も多く、洪水吐もコンクリート護岸も、はたまたバルブタイプの取水設備も持たぬ古いタイプの溜め池がこれだけ多く残されてきたのも奇跡のようだが、一方でいったいどうやって池や水の管理を行っているのか疑問でもあった。
佐渡一の溜め池密集エリアである鹿伏台地において、まるで王のごとく君臨する四連の池もまた、その変革の波にさらされている。
折しも、下から三番目にあたるこの池では二年に及ぶ大規模な改修工事が行われていた。

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Googleマップの航空写真から。洪水吐の新設、取水設備の取り付け、管理用階段の整備が堰体に施されているのが分かる。

洪水吐、取水設備、管理用階段が新しく設けられた。四連の池のうち、ほかの三つの池にはこれらの設備はまだ付与されていないようである。
また、この工事と連動して、下の池のインレット側には段丘を切り通してまで、管理用の道路が新設されている。これは航空写真には写っていない。

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堰体を下側から(左)と堰体天端から下の池を見る。(右) 取水した水が通る水路に合わせ、段丘を切り通した管理道が新設されている。


注目しているのは、この池の天端を通る舗装路。この道は工事区間もまだ残っているが、どうやら鹿伏台地を縦貫させる、いわば広域農道のような存在のようだ。
どこへ行くにも迷路状のあぜ道のような道を縫っていくしかなかった鹿伏台地に、一本の背骨を通そうというのだから大変革といえる。そして日本にわずかに残された昔ながらの里池の聖地も、この背骨から次第に現代化の波に呑まれていくのだろう。
今回はとても興味深いタイミングに訪れることができた。次に訪れるときにはアプローチも楽になりそうだが、その分、立入禁止や釣り禁止が増えているかもしれない。それも現代型の溜め池の大きな流れといえる。


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新しく設置された洪水吐と取水用の斜樋。全国的にみれば一般的な溜め池の設備であるが、佐渡ではダムクラス以外ではこれらの設備を持たない池が多い。


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走りやすい舗装の新しい広域農道が堰体天端を通る。その意味でもシンボリックな池だ。


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切り崩した土がむき出しの岸。残る工期の中でコンクリート護岸が施されるのかもしれない。


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この三番目の池の奥に、もうひとつ四番目の池が控えている。写真では池奥の谷間に15m以上はありそうな大きな堰体も見えているが、どんなに航空写真をにらんでもアプローチ方法が見えてこない。いったいどうやったら行けるのか、どうやって管理されているのか、まったく分からない。これが佐渡の池。