むぎょうぬま。
行く者も無いという沼の実態は・・。
その名からして、ただならぬものを感じさせる。そしてその立地。地図で見ると、喜多方の里から離れた山あいにぽつんとたたずむ。無気味だ。
伝説では、嫉妬に狂った沼の主である龍女(実態は大蛇)が通りかかる男を次々と引きずりこんだため、誰も行く者がなくなったといい、これが沼の名の由来となっているとか。
アプローチ方法もよく分からず、伝説も怖かったので、しっかり日がのぼってから向かった。
喜多方から旧米沢街道を進んでいくと分岐路に「無行沼入口」という手づくりの看板が立っている。距離1.3km、徒歩25分とも記されているので、クルマでは入れない可能性もあるが、その横に無行沼での釣りは日釣券か鑑札の腕章を携行せよという看板もあった。現在は釣り場になっているようだ。とりあえず進めそうなので、ほっとした。
田園地帯を山の方に1kmほど進むと「沼尻」という小集落に。民家のわきから山へと登っていく砂利道に「無行沼」への道路案内板があった。轍(わだち)の跡があるからクルマでも問題なさそうであったが、念のため徒歩で進むことにする。
直線距離は400mほどだったが、実際には山裾を縫って標高を上げていく上り道で1km以上は歩いたと思う。
やっと道の先に水辺を感じさせる潤った光の揺曳が見えた。「あぶないよ」という看板もある。
小走りで進んだ先に開けた視界に飛び込んできたのは、静寂をまといながら光まばゆい山上湖だった。
堰体の奥の方にかろうじてクルマを転回させるスペースも見えた。ただ、じっくり釣りをするほどの駐車スペースは、というと微妙な感じ。一台ならいいが、数台来たらどうなるんだろう。無行沼だけに、そういうシチュエーションはほとんど生じないということか。
水位の変動は大きいようであるが透明度は高かった。
魚や鳥、虫も含め、あまり生き物の気配がしない場所だなと思ったとき、岸近くの水面に波紋が立った。目を懲らしてみると、中型のブラックバスが数匹、回遊していた。
無行沼には、男を引きずりこんだという話とは別にもうひとつ、大蛇であるところの龍女にまつわる悲話もある。