広田ダム、海老敷第一堰、海老敷の堰。
見えないところが奥深い。崖に穿たれた割れ目の奥には・・。
そもそも呼び名の多い池である。広田ダム、海老敷第一堰、海老敷の堰、広田堰。どれもこの池の名前。
海老敷金比羅山の懐に抱かれた農業用のため池で、谷を堰くのは大正時代に計画され昭和に完成した堤高16.7mのアースダムである。未舗装の林道を1kmほど上がっていった先にあり、まわりには森と山しかなく、聞こえるのは鳥の声だけ。
この林道、以前はクルマでもまったく問題なく走れるフラットダートだったのだが、2017年の再訪ではところどころ荒れていた。
一見、ふつうの土盛りのため池に見えるが、じつはダムマニアを唸らせるすごく凝った構造をもっている。
初めて訪れたときは、まったく気づかなかった。というのも、堰体自体はシンプルそのもの、天端が駐車スペースになっているぐらいで、洪水吐や取水樋といったあるべきものが何もない。池の方を見渡しても取水塔もない。
そこで気づくべきだった。洪水のときに水を逃がす設備、そして少なくとも取水するための仕掛けを持たない農業用ダムはあるはずがない。
再訪の目的は隠れたこれらの設備を見ること。2017年初冬は水抜きが行われていたので釣り人としては残念ではあるが、ダムの構造をあますことなく堪能する上では絶好の機会といえた。
堰体正面(内側)は底部までコンクリートで補強されているだけで、下写真のように何もない。池底のリバーチャネルは堰体の手前ですっと左に折れて隠れている。わずかに残った水がそちらに流れているから、池の最深部は堰体側ではなく、この隠れた場所だと分かる。
満水時なら、ここは小さな沢が流れ込むワンドになっている。堰体からはまったく見通せないのでマルチコプターを飛ばす。想像しなかった光景があった。
切り立った崖を穿つ一条の割れ目。その割れ目の奥には細い階段が沿うている。
これが地味な農業ダムでなければ、世界遺産の秘仏さながらではないか。
リバーチャネルはここへと通じ、最後の水が流れ込んでいる。割れ目の奥に隠された秘仏こそ、このダムの風呂の栓だった。
取水設備は確認できたが、大雨のときに水を逃がすための余水吐(洪水吐)はどこだろう。マルチコプターからの伝送映像では分からない。
堰体の奥に、右岸側の秘所へと道が通じているようなので進んでみることにした。
これぞ房総一の円形ダム穴。
道は割れ目のところまでつづいていた。この割れ目を渡す小さな鉄製の橋もかけられていて、この最奥部に垂直落下式余水吐と隧道式余水吐の二つの穴がぽっかり口を開けていた。
トンネルの方は身をかがめれば歩いていけそうな大きさがある。ここを轟々と濁流が流れ込んでいく姿を妄想すると身がすくむ。
ダム穴の方はイノシシぐらいは落ちてしまいそうな直径で、ドーム形をした鉄製の転落防止の檻が付けられていた。
ダム穴は房総の野池では小規模なものや方形のものはしばしば見られるが、円形で大きなのはめずらしいと思う。
なぜこんな変な場所でなければならなかったのか。堰体は両側から山にはさまれているので洪水吐のスペースがとれなかったから?
とにかく満水時には割れ目はすっかり水面下に隠れてしまうことだろう。ワンドは釣り人にとって狙いたい好スポットであるだけに、よもやこんなところにブラックホールのようなものがあるとは想像できない。フローターごと呑み込まれたらと思うと怖い。
同じ房総では大堰に方形のダム穴がある。またダム穴の有名どころとしては愛知県の猫ヶ洞池がある。
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マークした場所は駐車スペース。